旭酒造は、純米大吟醸酒「獺祭(だっさい)」の自主回収を発表した。アルコール度数にばら付きがあると判明したからだった。基準の16度に対し、12~17度とばら付いていた。さらに、その理由は「撹拌(かくはん)」工程を怠ったことにあった。

 通常、獺祭では17度の原酒に水を加えて撹拌することで16度にする。その工程を担当する作業者が、撹拌を忘れていたという。回収対象商品の出荷本数は約26万本、回収費用は約6億5000万円に達する。海外にも展開し、日本酒として世界で最も有名になった獺祭は、意外なアクシデントをむかえた。

 同社は、2016年に虫の混入でやはり商品を回収したことがある。もちろん、虫の混入も問題ではある。ただし、今回の撹拌問題は作業者の単純な作業漏れだったことから、その初歩的な内容に、衝撃を受けた人が多かったのではないか。

(出所:PIXTA)
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現場のごまかしは防げるか

 私は現場の調達担当者だったころ、多くの工場に行った。もともと、取引を開始する際には、品質監査を重ねている。だから、基本的なシステムに問題はない。ただし、時間がたつと、工場監査時の体制が変わり、工場長や作業者も入れ替わっている場合がある。

 ある工場では、作業手順をちゃんと作業標準書として明文化しているという。確かに、工程には作業標準書が準備されている。ところが、私が現場で聞いてみたところ、作業者は南米出身で日本語を理解していなかった。

「これでは意味が無いんじゃないですか」

「大丈夫です。班長が、最初にやって見せていますから」

「言っていたことと違いますよね…」

 そんなやり取りが何回もあった。

 それでもなお、「品質基準がありますので、作業者はそれを守っています」「最終検査をやっていますから大丈夫です」などと言われることが多い。その場合、私は以下のように質問していくことにしている。

・なぜその品質基準になったのですか
・それを作業者は理解していますか
・その品質基準を作業者が守っていると、どうやって管理していますか

 最後の質問に対しては、「他の作業者がダブルチェックしています」「次の工程で確認します」といった回答が返ってくることが多い。その場合、私は「工場全体が疲弊していて、少しぐらいの不具合だったら良品として出荷してしまおうと思ったら、実際にできますか」と質問する。

 この質問の意図は、決して現場の作業者を悪者にしようというものではなく、あくまで「やろうと思ってもできない仕組み」を聞いているつもりだ。だが、たまに工場のモラルを疑っていると勘違いされ、「そんなに不真面目な社員はいません」と反論されるケースもあった。

 あまりにノルマが厳しく、現場の多くの作業者が「やってられない」と思うようになると、品質基準を満たさないものがたやすく出荷されてしまう。これは、データ化がいかに進もうと、人間がそこに介在する限り、起き得る話だ。

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