先日、中国から来た企業一行に講演をする機会があった。役人ではなく企業人なので、ざっくばらんに話せる雰囲気があった。私は、米中経済戦争とそれに付随するはずの世界経済失速についての懸念を何度も述べた。一行は深くうなずいてくれたのが印象的だった。ただし、「米中経済戦争」ではなく「中米経済戦争」に変更した方がよいと指摘されたが。

(出所:PIXTA)

 このところ、日本企業を回っていても同じく米中経済戦争が話題になる。私の職業柄、出会うのはサプライチェーン・調達・購買業務に属している方々だ。米中の経済の先行きに懸念の声が上がり、そして、何よりも生産地や調達国について深い悩みを吐露される。誰も、正解が分からない。

 分かっているのは、何らかの手段で状況に追随する必要があることだ。五里霧中の状況で、日本企業は相次いで生産地戦略の変更を発表した。目立った事例を幾つか挙げる。

  • 任天堂は主力の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」を中国で生産しているが、その一部をベトナムに移管する
  • シャープ系列のDynabookは、現在、米国向けノートパソコンを中国で生産しているが、総合的に検討を重ねた結果、ベトナムの新工場に移そうとしている
  • シャープは、車載用ディスプレーについても中国から米国へ送るのは不利だと判断し、同じくベトナムに建設中の新工場で生産する
  • 車載用モーターを手掛けるミツバは、全量ではないが米国向けなど一部製品を中国からベトナムに移管する
  • 富士フイルムは、中国で生産しているインスタントカメラ「チェキ」をフィリピンに移管する
  • アイリスオーヤマは中国工場の生産能力をここ数年で倍増させてきたが、米国向けの一部製品については韓国に移管する

 日本企業に限らず、オランダ・フィリップス(Philips)、米HP、米デル(Dell)などの海外企業も中国から他国への生産移管を検討するという。

国内回帰の動きも

 さらに、生産地を中国から日本に戻す事例も出てきた。

 ケーヒンは、現在中国から米国へ送っているモーターについて、一部は日本の工場から出荷した方が有利と判断し、国内生産に切り替える。このような国内回帰の動きは、同社以外にも見られる。関税を考えると、もはや中国の利点がなくなり、国内に回帰した方がよいというケースは十分にあり得る。

 国内回帰を選択する要因として考えられるのは、移管のスピードだ。中国から別の外国に移管するよりは、日本に移管する、または既存の国内工場の生産量を増やす方が迅速に対応できる。そして、労働集約型の製品ではない場合、つまり人間の手があまりかからず自動化できる工程が多い製品の場合、日本で生産したとしてもコストがさほど不利にならない。

 それは数年前に、ドイツ・アディダス(Adidas)が「スピードファクトリー」と銘打ち、アジアからドイツに生産地を変更したことと相似形だ。このスピードファクトリーは完全自動工場であり、アジアの安価な労働力を必要としないし、アジアから製品を送る時間もコストもかからないというわけである。

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