技術とその応用を考えるとき、私はよく以下のエピソードを思い出す。

 以前、面白い経験をした。私はよく仕事で講演を頼まれる。私だけが講演する場合もあるし、私を含めた複数人の講演者が呼ばれている場合もある。テーマを見て興味深かったら、せっかくだからと他の講演を拝聴することが多い。

 そんなとき、全く無名ながら、極めて面白い講演者がいた。内容は今回の趣旨ではない。私は感動したついでに、主催者に彼のギャラを聞いてみた。感動とギャラは関係がないかもしれないが、私の聞いた答えは、平均的な水準よりも低いものだった。

 一般に、ギャラは講演者の知名度と主催者の予算で決まる。彼はいずれ頭角を現すだろうから、私が心配することではない。そこで私は、予算総額から聴衆のウケが良かった比率でギャラを分配する仕組みを考案した。聴衆にアンケートなどで得点を付けてもらい、それに基づいてギャラを決めるのだ。

 この仕組みをさまざまな主催者に持ちかけたが、どこでも良い顔はされなかった。自分が呼んだ講演者の評判が悪かったからといって定額のギャラを支払うのは気が引ける。それに、「受講者に媚(こび)を売る講演者」が高評価になるはずだという。

 だから、私たちの会社で実験してみた。私たちの会社はセミナーを主催するので、受講者のアンケート結果で順位を付けることについて、講演者の承諾を取った。さすがに謝礼には差を付けなかったものの、「受講者に媚を売る講演者」が本当に高評価になるか知りたかったからだ。

 結果は、媚を売るかどうかと評価はほぼ関係がなかった。考えてみてほしい。講演者が「私に高評価を」といっても、受講者は時間とコストをかけてやってきている。内容が良くなければ評価は低い。

 そんなとき、私はスペインのお笑い劇場の取り組みに衝撃を受けた。それは「pay-per-laugh」(笑うごとに支払う)というものだ。まさに、聴衆が笑った数に応じて料金が決まる。聴衆はカメラで分析され、IoT(Internet of Things)デバイスから一笑いごとに従量課金制で支払う。上限価格は存在したが、アイデアとしては面白い。

 しかし、さらに私が面白く感じたのは、そのスペインの劇場では、もうpay-per-laughが採用されていないということだ。テクノロジーとして不十分だったのかもしれない。だが、私にはもっと違う要因があるように思えてならない。聴衆が顔を分析されたくなかったのか。あるいは、お笑い芸人が可視化されることに耐えられなかったのか。または、ある種の残酷さが継続を拒んだのか。

ブロックチェーンとサプライチェーン

 現在、サプライチェーンへのブロックチェーン技術の応用が喧伝(けんでん)されている。ブロックチェーンは分散型台帳技術といわれる。分散型ネットワークの技術を用いれば、誰も改ざんができず、各種の情報を記録できる。

(出所:PIXTA)
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 台帳を全員で共有し、管理する。誰かが改ざんを試みても、全員の台帳を修正するのは不可能だから、乖離(かいり)が生じる。それまでの取引履歴などをこのブロックチェーン技術で記録しておけば、論理的には、国や公的機関のお墨付きがなかったとしても、そのデータの正確さを担保できる。

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