「ニューシェパード」は、国際的に宇宙空間と定義される高度100km以上に到達する弾道飛行用の有人宇宙機だ。その名称は、米国初の宇宙飛行士アラン・シェパード(1923〜1998)にちなむ。BE-3エンジンを1基装備した推進モジュールの上にカプセル型有人宇宙船が乗っており、全長は18m。打ち上げではエンジン停止後に宇宙船と推進モジュールを切り離し、カプセル宇宙船はパラシュートで、推進モジュールは逆噴射による着陸で回収、再利用する。

ニューシェパード運用の概念図(出所:ブルーオリジン)
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逆噴射で着陸するニューシェパードの推進モジュール(出所:ブルーオリジン)
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 米スペースXのファルコン9は、軌道速度を出す衛星打ち上げを行っている。これに対してニューシェパードは、高度100kmの弾道飛行までしか実現していない。宇宙機の発生する運動エネルギーはファルコン9の方がはるかに大きく、また高度な技術を使っていると分かる。しかし、大気圏内の落下と噴射による落下速度の制御、空力的な誘導制御、着陸脚を出しての軟着陸については技術的にほぼ同じだ。その目でみると、ニューシェパードは、ファルコン9よりも確実で「賢い」設計をしていると分かる。

着陸脚と空力フィンを展開した状態のニューシェパードの推進モジュール(出所:ブルーオリジン)
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 ブルーオリジンの技術者たちの「賢さ」が一番はっきり表れているのは、推進モジュール上部のカプセル宇宙船との結合機構だ。

 宇宙船を分離した後は、そのままでリング形状の安定フィンになるのだ。打ち上げ時は上に宇宙船が載っているので余計な空力的な力を発生しないが、宇宙船を分離して落下フェーズに入ると周囲に空気の流れが入って安定翼として動作する。加えて上部からは回転式の安定翼がせり出して、より強固に姿勢を安定させる。空力的な誘導制御は、リング状のフィンから持ち上がるスポイラーで行っているようだ。

 この設計から、ブルーオリジンには、相当な練度の空力と構造の技術者が在籍し、合理的な設計を追求しているようにみえる。恐らくは複数人いるだろう。しかもその強力な技術陣が、これまた強力な営業関係者とかなり緊密な意思疎通を図っているらしい。

 ニューシェパードのカプセル型宇宙船は、他に例を見ないほど大きな窓を持っている。窓は強度が低く、また大きな窓を持つことで宇宙船全体の構造も弱くなる。そこで宇宙技術者は、有人宇宙船に必要以上に大きな窓を付けるのには「安全を脅かす」として否定的なのが通常だ。大きな窓が必要だと主張したのは、「この宇宙船で弾道飛行をする顧客は、窓から見える地球の様子を喜ぶ」と考える営業関係者だろう。

 つまりニューシェパードの大きな窓は、営業と技術が緊密に意思疎通しており、しかも技術陣は、無理かとも思える営業の要求を現実化する高い能力を持っていると示している。

パラシュートで着地したニューシェパードのカプセル型宇宙船。大きな窓が付いているのが分かる。この窓は、有人弾道飛行サービスにおいて、ニューシェパードのセールスポイントとなっている(出所:ブルーオリジン)
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