今、世界のスポーツビジネス界で旋風が起こしている団体がある。それは格闘技ビジネス、しかも欧米でなくシンガポール発の「ONE チャンピオンシップ」である。同大会は今や、世界140カ国、26億人以上の視聴者を持つアジア最大のスポーツメディア企業となり、欧米の著名な電子メディアと配信・放映の契約を結んでいる。ONE チャンピオンシップ の注目度の高さは、米アップルや米グーグルなどに投資したことで知られている、米シリコンバレーのベンチャーキャピタルのセコイア・キャピタルなどから、既に2億7000万ドル以上も出資を受けていることからもうかがい知れる。シンガポール政府も同社の株を保有しているという。

 同社を率いるのがチャトリ・シットヨートン(Chatri Sityodtong)氏だ。タイ人の父親と日本人の母親を持つチャトリ氏。極貧で米国に渡り、苦学を重ねて米ハーバード大学でMBAを取得。ニューヨークでヘッジファンドとして成功し、次に目を付けたのが “格闘技ビジネス”だ。そのONE チャンピオンシップ が、10月13日に第100回大会を東京・両国国技館で開催する。前回の日本大会は同3月31日で、このときはチケットが完売し、多くの観客を熱狂させた。同社CEOのシットヨートン氏に、なぜ格闘技ビジネスに参入し、米国の「UFC」とは何が違うのか、何を目指しているのかなどを聞いた。(聞き手:上野直彦)

ONE チャンピオンシップが2019年9月17日に開催した、第100回大会(10月13日)のプレス説明会の様子。左から5番目がチャトリ・シットヨートン氏
(写真:上野直彦)
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“ストーリー作り”を最も重視

世界的に見て格闘技団体としては最も有名なのは、1993年に米国で創設された格闘技団体「UFC」です。一方で、ONE チャンピオンシップ は2011年にシンガポールで誕生し、現在急成長を遂げています。両者にはどのような違いがあるとお考えですか。

チャトリ 世界最大級の格闘技団体の運営会社はUFCとONE チャンピオンシップ の二つです。UFCは売り上げの約80%ほどのシェアを西半球が占めています。一方、ONE チャンピオンシップ の売り上げの約90%が東半球です。この違いは大きいです。

 同じ格闘技ですが、UFCのDNAなのか、精神的な哲学として闘争の要素が強く、主役も「ヒーロー」「ヒロイン」ではなく、血やケンカのイメージを売り物にしている印象があります。ONE チャンピオンシップ は真逆です。ヒーローやヒロインが生まれる“ストーリー作り”を最も大切にしています。具体的には、アジアの一番大切な文化を支持しています。すなわち、「価値観」「ヒーロー(ヒロイン)」「ストーリー」です。

 ここで言う価値観とは、誠実さ、勇敢さ、栄誉や敬意といったアジアの5000年の歴史の中で育まれてきた「武道の文化」です。そこで、ONE チャンピオンシップ では誠実なヒーローを生み出していくことを心掛けています。貧しい家の出身であったり、困難な人生を送ってきたそのヒーローが持つストーリーが、人々に多くのインスピレーションを与えてくれます。そのインスピレーションを受けた人から、次のヒーローやヒロインが新たに誕生する。こういった点を見るだけでも、UFCとの違いは多くあります。

ビジネス戦略はどのように違うのですか。

 UFCは地上波では放送せず、有料のPPV(ペイ・パー・ビュー)で小規模な局のみで放映しています。一方、ONE チャンピオンシップ は全世界に届けたいという考えの下、各国の大手放送局に無料で放映してもらいます。それがファンの飛躍的な増加につながっています。

 UFCの1大会での平均視聴者数はおよそ500万人ですが、ONE チャンピオンシップ では約2600万人です。しかも、最高視聴者数を記録したマニラと東京の大会では、いずれも4200万人に達しました。

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