不正指令電磁的記録に関する罪、いわゆる「ウイルス罪」が2011年に新設されたきっかけは、さらに10年前の2001年までさかのぼる。

 同年11月23日、ブダペスト。欧州評議会を中心にまとめた「サイバー犯罪に関する条約(サイバー犯罪条約)」に、日米欧など30カ国が署名した。

 この条約の狙いの1つに、不正アクセスや不正傍受、妨害などの犯罪を実行する目的でプログラムを作成・提供する行為を違法とするよう、参加国に国内法の整備を促すことがあった。

 それまでサイバー犯罪について各国の法制度がバラバラで、国をまたいだ捜査に支障をきたしていた。各国の法制に共通の指針を作り、国際捜査を円滑にする狙いがあった。

 当時の国内法は、ウイルスの開発や提供自体は処罰の対象ではなかった。1987年の刑法改正で「電磁的記録不正作出罪」「電子計算機損壊等業務妨害罪」などのコンピューター関連犯罪が法制化されたが、スタンドアロンのコンピューターに対する犯罪を想定していたうえ、実害が発生していない段階での摘発はできなかった。

ウイルス罪法案、宙に浮く

 条約への署名を受けて政府は2004年、「いわゆるコンピュータ・ウイルス」の作成や提供などに刑事罰を科す刑法改正案を国会を提出した。

 法案提出前、当時の法務省大臣官房参事官は改正の狙いや違法化の対象について以下のようにコメントしている(『日経インターネットソリューション』2004年1月号から引用)。

 「コンピュータは信頼されるべきもの。この信頼を裏切るプログラムを罰することができるように、条文では『不正な指令に係る電磁的記録その他の記録』と規定する。現在はウイルスとほぼ同義だが、ウイルス以外の悪意あるプログラムも対象にできると考えている」

 だが、政府は関連法案をいわゆる「共謀罪」とセットで国会に提出したため、野党が共謀罪の成立に反対した結果、同法案はいったん宙に浮いてしまう。

 そうこうしているうちに、当時の国内法では取り締まりが困難なサイバー犯罪が相次ぎ発生した。特に猛威を振るったのが、パソコン内の情報を抜き取って拡散させる「暴露ウイルス」である。PtoPファイル交換ソフト「Winny」などを経由して感染が拡大したが、データを消去するなどの破壊行為がない場合、既存の法律では摘発が難しかった。

 2008年1月に京都府警がウイルス作成者の1人を逮捕した。これが日本で初めてウイルス作成者を逮捕した事例とされるが、容疑は著作権法違反だった。「ウイルスの一部にアニメ画像を無断で転用した」ことに著作権法違反を適用する離れ業の摘発である。新聞各紙は「ウイルス罪を早急に成立させるべきだ」とする社説を相次ぎ掲載した。

 2011年6月、共謀罪の部分を削除する形で、ウイルス罪を新設する刑法改正案が国会で成立。同年7月に施行された。

 この成果を受け、2012年11月から日本でサイバー犯罪条約が発効した。既に署名から10年以上が経過していた。

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