グーグルカーを筆頭に、自動運転車の主流は自律型だ。クルマ単体で基本機能の全てを完結する一方で、コストは数千万円と極めて高くなる。スマートフォンでは、多くの機能をクラウドに移して端末の負荷を軽くし、手ごろな価格で多くのサービスを実現した。クルマも同じ。次世代移動通信「5G」とエッジコンピューティング(エッジ解析)の導入で、クルマの“頭脳”は遠隔側に移っていく。

 「2025年に月間10E(エクサ、1000京)バイトに達する」――。

 トヨタ自動車が主導する「オートモーティブ・エッジ・コンピューティング・コンソーシアム(AECC)」で試算する世界の自動車が遠隔側に送るデータ量は、莫大だ。全データをクラウドに送っていると、「ネットワークが破綻しかねない」(AECCプレジデントで、トヨタコネクティッドカンパニーITS・コネクティッド統括部主査の村田賢一氏)。

 自動車メーカーにとって、「クルマのデータ爆発」の解決策がエッジコンピューティング(エッジ解析)である。

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トヨタが中心になって設立した自動車のエッジコ ンピューティング推進団体「AECC」の構想。AECCの資料を基に日経Automotiveが作成した。

 村田氏は、「インターネット経由でクラウドの計算機にデータを送る前に、エッジ側で解析してデータ量を減らす必要がある」と指摘する。エッジ解析なしに、通信機を搭載した自動車の普及はあり得ないと見るわけだ。

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AECCプレジデントの村田賢一氏(トヨタ自動車コネクティッドカンパニー主査)。ソニー出身で、プロセッサーに詳しい。(撮影:日経Automotive)

 AECCでは現在、自動車のデータをエッジ解析するための要求や技術仕様について、自動車メーカーや通信事業者、ITベンダー、半導体メーカーなどが話し合っている注1)。2018年12月から、検討内容を移動通信の国際標準化団体「3GPP」に提案し始めた。2021年以降の発行が見込まれる「リリース17」への反映を目指す。

注1)トヨタやNTTが中心になって遅延時間などの要求案を考えるグループ(WG1)と、米インテル(Intel)やスウェーデン・エリクソン(Ericsson)などで技術仕様を考えるグループ(WG2)がある。今後、米デル(Dell)や米シスコシステムズ(Cisco Systems)などがエッジ解析の具体的な仕様を考えるグループ(WG3)を作る検討もある。

 自動車メーカーが、データ量を減らす目的で導入を後押しするエッジ解析。遠隔自動運転を実現する水準まで通信時間を低遅延化するのに欠かせない技術になる。

 3GPPが2020年ごろに発行予定の「リリース16」で正式仕様が決まる、第5世代移動通信(5G)の低遅延版「URLLC(Ultra Reliable and Low Latency Communication)」。この低遅延版5Gとエッジ解析を組み合わせることで初めて、遠隔型に必要な遅延時間の目標である100msの水準にできる。

 100msが目安になるのは、「多くの車載センサーの動作周期に相当する」(自動車メーカーの技術者)ためである。これ以上早く制御指令値を送っても、自動車側が反応しにくい。

 加えて100msの遅延時間であれば、最大で車速100km/h程度の車両まで円滑に遠隔運転できるとみなせる。実用上は十分な車速である。

 遠隔自動運転の専門家である慶応義塾大学教授の大前学氏は、長年の研究に基づく経験則で、遠隔制御可能な車速と遅延時間の間に、「車速(m/s)×遅延時間の許容値(s)=約3m」という関係式を見いだした。100msの遅延時間であれば、車速108km/hまで遠隔制御できる計算である。

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慶応大学のインフラ誘導型自動運転システム。同大学教授の大前学氏の研究成果。(a)は、建物上に設置したカメラで小型車両を認識して、周回路を走行するように誘導する様子。(b)は地上に設置したレーザーレーダーで自動車を認識して、障害物を避けるように誘導している。大前氏は、長年の遠隔制御の研究に基づいて、遅延時間の目安などを提唱している。(出所:慶応大学)

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