これは前田課長(仮名)を上司に持つ、ある会社の課員たちの悩みです。

 「私は部下に仕事を任せるようにしている」というのが前田課長の口癖。そう言っておきながら、前田課長は細かいことにまであれやこれやと口を出します。

「任せてくれたんじゃないの? だったら自由にやらせてほしい」

「自分は信頼されていないのかな」

「これ、やっても、結局また注意されるのかも」

 何をするにもこうした不安があり、課員は行動しづらくなっています。

エンパワーメントとは

 エンパワーメントとは、「力を与える」という意味の「empower」から派生した言葉です。組織の構成員1人ひとりやチームのパフォーマンスを最大限に引き出すために、現場の社員に権限を委譲してサポートしていくことを意味します。リーダーの裁量や判断を単にメンバーに委ねるだけではなく、メンバーが自分で判断・行動することで成長を促す支援活動であることがポイントです。

 ところが、「名ばかりのエンパワーメント」はメンバーの思考を停止させるだけではなく、モチベーションを下げ、自主性や自律性を押さえ付けてしまうことになりかねません。

エンパワーメントのメリットとデメリット

竹村 孝宏
イントランスHRMソリューションズ代表取締役社長(出所:著者)

 エンパワーメントのメリットは、以下の3点です。

[1]組織内の意思決定の迅速化

 メンバーが自ら決めて行動することで、意思決定に至るまでの時間が短縮され、組織としての機動力がアップして、顧客満足度の向上につながります。リーダーは、抱える業務が減ることで、本来専念すべき業務に集中できるため、組織としての生産性が上がります。

[2]メンバーの目的意識と責任感の喚起

 リーダーの指示で行っていた上位の仕事を自分の裁量で進めることができれば、メンバーの目的意識が高まって責任感を喚起できるため、モチベーションを高められます。成功体験はメンバーに自信を与え、より高いレベルにチャレンジする精神を育みます。失敗しても、さらにレベルアップするために何が必要かを考えるきっかけになります。

[3]メンバーの能力開発による組織力強化

 挑戦的な仕事を任されたメンバーが、新たな困難に立ち向かい、試行錯誤しながら課題を解決する場を提供できます。これよりメンバーの能力が開発され、成長につなげることができます。個々のメンバーの能力が高まることで、組織力強化に向けた人材の適正配置をしやすくなります。

 一方で、デメリットもあります。

[1]権限や責任がメンバーの力量と不一致

 権限や責任が本人の力量に合わない場合、逆に委縮させてしまうことがあります。知識や経験不足のメンバーにとっては、権限を委ねられることはストレスになります。その結果、かえってやる気を損ねてしまう人がいるかもしれません。エンパワーメントを効果的なものにするには、育成対象となるメンバーの力量をしっかりと見極めるプロセスが必要なのです。

[2]組織のビジョンやミッションとのズレ

 エンパワーメントは、個々のメンバーの意思決定による行動を推奨することです。マニュアルで業務の詳細を規定すれば、一定の質とサービスを保てるはずです。これに対し、個々のメンバーに任せると、基準や方向性にばらつきが生じる可能性があります。安定したサービスを顧客に提供できなかった場合、クレームにつながることもあり得ます。

 組織の目指す方向性とメンバーの行動にズレが生じる可能性もあります。リーダーが知らないことが出てきてしまうリスクも考えられます。これらを避けるには、目的や目標から逸脱しないようにメンバー全員が理解して共有することが重要です。そのためには、仕事に対する考え方やノウハウを共有する仕組みづくり、個人の裁量で行動してもよい範囲の設定などが必要となります。

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