急速な経済成長と人口増加により、軋(きし)みをあげる超大国インド。広大な国土を対象に、多文化、多様性を認める都市開発を進めるために現政権は「スマートシティー」の可能性に目を向けた。100都市におけるスマートシティー構築とデジタルインフラ戦略で、数多抱える都市課題の解決を目指す。

 「どの国・地域にも、スマートシティーのプロジェクトはある。しかし、国の主導で一気に100都市のスマートシティー化を推進する、というのはユニークな取り組みのはずだ」

 複合都市開発やハイテク工業団地などのほかスマートシティー開発のコンサルティングも積極的に手掛け、インド国内ではヴァラナシ 、インドール、ボーパールなど複数都市でプロジェクトマネジメントに参画するREPL(Rudrabhishek Enterprises Ltd.)の会長、プラディープ・ミスラ氏はこう語る。

REPL(Rudrabhishek Enterprises Ltd.)会長のプラディープ・ミスラ氏(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

 2014年5月に発足した現モディ政権は、「モディノミクス」と呼ばれる様々な経済政策を打ち出すなかで15年6月、住宅・都市開発省の管轄となる「スマートシティーミッション」をスタートさせた。2020年を目標に、国内100都市でスマートシティー構築を図る、というものだ(現在は、対象都市の選考から5年後を目標年としている)。

 インドのスマートシティープロジェクトは、成熟期に入った旧来の経済大国のそれとは異なる。上・下水道、電気、交通といった基本的なインフラの整備が追い付かず、貧困削減、治安など社会的課題も山積みのなか、世界第7位の面積を持つ国土の「近代化」と「都市化」をコントロールしなければならないからだ。

 デリー拠点の建築設計事務所、モルフォジェネシスのファウンディングパートナーであるマニ・ラストージ氏は、「インドの都市人口は今後20年間で30%から50%にまで成長する。間断ない移住、時代に取り残されたインフラ、資源の枯渇、環境汚染、気候変動など今日のインドの都市は『緊急事態』に直面している」と強調する。

モルフォジェネシスのファウンディングパートナー、マニ・ラストージ氏(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

 やはりデリーを拠点とする建築・都市設計事務所クリエイティブグループのファウンディングプリンシパルで、スマートシティーに関する著書のあるチャランジット・シャー氏は、人口増加が最大の関心事となっているインドの都市を「首を絞め上げられている」と表現する。「AI(人工知能)などの情報テクノロジーは、贅沢品ではなく生活必需品となって、都市を、よりモバイルなものとし、よりスマートなものとし、よりサステナブルものとする」として、建築・都市に関わる立場としてIT・デジタル領域からのアプローチに力を入れている。

クリエイティブグループのファウンディングプリンシパル、チャランジット・シャー氏(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

「スマート化」を柱に広大な国土を開発

 インドは独立性の高い29の州に分かれ、多民族、他宗教の国民が同居する。また、22の公用語が存在する。そうした多様性、多文化を認めながら進める都市政策は困難かつ挑戦的なものとなる。国内で急進展するデジタルインフラ構築の技術を用い、資金をはじめ諸々のリソース(資源)を最適に分配する取り組みが必須となる。

スマートシティーミッションの対象、現99都市をマッピングしたインド全図。29州を色分けしている(資料:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]
デリーの衛星都市として急速に都市化したグルガオン。スマートシティーミッションの対象都市ではないが、北部の新興都市の代表格。なお東部のムンバイも対象都市にはなっていない(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

 スマートシティーとは何か。その国、その都市の発展段階、市民・住民の抱える願望およびニーズ、変化や改革に対する意志、その実現のために使い得るリソースによって、意味合いは異なる。インド政府もスマートシティーそのものの定義は不能としつつ、都市計画に携わる者には、「制度的、物理的、社会的、経済的なインフラによる、都市のエコシステム全体の開発」を理想としてほしい、と唱える。

 ではインドで考えられている政策とは、どのようなものか。政府によると、以下の10項目がスマートシティーの核となるインフラ要素とされる。

1.十分な水の供給
2.確実な電力供給
3.ゴミ(固形廃棄物)の管理を含む衛生環境
4.効率的な都市モビリティーと公共交通機関
5.特に低所得者向けの住宅
6.堅牢なIT接続性とデジタル化
7.優れたガバナンス、特に電子ガバナンスと市民参加
8.持続可能な環境
9.市民、特に女性、子ども、高齢者の安全と安心
10.健康と教育

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら