本記事は、日経コンピュータ2015年3月5日号の特集「さらば訴訟リスク」を再構成したものです。

法廷紛争はユーザー企業もベンダーも望んでいない。だが、契約書だけで想定外のトラブルを回避するのは困難。ベンダーとの関係を支える「人」に関わる仕組み作りが必要だ。フィリップモリスなど3社はトラブルの経験を生かし、どのように行動したのか。

 システムは指令通りに動くか動かないか、はっきりしている。はっきりしていないのは人同士のコミュニケーションだ。ユーザー企業とベンダー間に限らず、双方の組織内で生まれる齟齬が、訴訟トラブルを引き起こす原因になり得る。ローソンで執行役員業務統括本部副本部長を務める佐藤達氏は、「システム開発でもめないためには、ベンダー、IT部門、利用部門の三者が早い段階でいかに考えを擦り合わせられるかにかかっている」と強調する。

 世界最大のたばこ会社である米フィリップモリス日本法人、2008年5月にサービスを開始したライフネット生命保険、首都圏で中古車を販売するフレックスは、「人」に着目したトラブル回避の取り組みを進めている。

「Speaking up」で瞬時に情報共有

 2015年初頭、フィリップモリスの日本法人であるフィリップモリスジャパン(PMJ)でシステムトラブルが発生した。新たなSFA(営業支援)システムを稼働させたところ、各種データがうまく同期せず、処理の遅れが生じたのだ。

 だが、IT部門に相当する同社のインフォメーションサービス(IS)部は、ベンダーとコミュニケーションを重ねて対応を協議し、事なきを得た。IS部ディレクターのジャック・アペル氏は「チームのゴールは何かを見失わなければ、何をすべきかはおのずと明確になる。大切なのは、責任の押しつけ合いよりも課題の解決だ」と語る。

 こうしたベンダーとのコミュニケーションの前提となっているのが、フィリップモリス全体の企業文化の一つである「Speaking up(スピーキングアップ)」だ。

フィリップモリスのシステム開発体制
情報を素早くシェアする「Speaking up」文化
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 Speaking upは、気づいたことを気づいたときに互いに指摘し合うというもの。マネジャーが忙しそうに見えても、必ず瞬時に情報を共有する。同社はこの文化を社内だけでなく、共にシステムを開発するベンダーにも広めているという。

 「システムにトラブルがあるとすぐにカフェテリアで広まっている」とアペル氏は苦笑する。Speaking upにより、情報を囲い込まずオープンにすることが、トラブルの早期解決につながっている。PMJとベンダー間、あるいはPMJ内のIS部と関連部署間で、ちょっとしたことでも頻繁に情報をやり取りして微調整を繰り返せるメリットは大きい。

 システム開発の際は、Speaking upを前提として、上流工程で徹底して仕様を詰めていく。「昔のシステム開発は、設計に1ドル、開発に10ドル、修正に100ドルかかると言われていた。今は逆で、むしろ設計に100ドルかかる」(アペル氏)。というのも、「20年前はIS部がシステムを開発し、現場に引き渡せば終わりだったが、今のシステム開発はビジネスプロジェクトとなっている」(同)からだ。

 同社ではシステム開発プロジェクトの企画段階から業務部門を加え、相応の時間とコストをかけ、徹底して詰めるようにしている。

 まず重視するのはゴールの共有。企画段階では、ビジネス部門に画面やデモを見せ、合意を取ったうえで開発に着手する。これも開発工程での大幅なリスク低減につながる。

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