本記事は、日経コンピュータ2016年10月13日号の特集「『動かないコンピュータ』裁判を読み解く」を再構成したものです。

旭川医大とNTT東日本、トクヤマとTIS、読売新聞とアクセンチュア。いずれも、パッケージ導入の失敗をめぐり、訴訟で責任の有無を争った。これらの事例は、パッケージ導入の難しさや課題を浮き彫りにする、貴重な教材だ。裁判資料を基に、プロジェクト失敗の真因を読み解く。

旭川医科大学/NTT東日本
追加開発の膨張は破たんへの一本道

 追加開発が際限なく膨らめば、プロジェクトは失敗の道を突き進む。旭川医大もNTT東日本も、その道をたどった。

旭川医大/NTT東日本の主張と裁判所の判決
追加開発の膨張による失敗の責任はITベンダーにあり
[画像のクリックで拡大表示]

 旭川医大は2008年8月、電子カルテを中核とする病院情報管理システムの入札を実施した。落札したのはNTT東日本だ。日本IBMと共同開発したパッケージをカスタマイズし、6年リースで提供する計画だった。

旭川医大とNTT東日本によるシステム開発プロジェクトの経緯
期日までにシステムを引き渡せず
[画像のクリックで拡大表示]

 だがプロジェクト開始直後から、暗雲が漂い始める。2009年3月の会議では、同病院の医師が「現行システムにある機能が提供されないことは、現場の混乱につながるため、認めることはできない」と表明し、他の医大側出席者の賛同を得た。同医大は数百件もの仕様の追加を、NTT東日本に要望した。

 このままではプロジェクトは破たんする。両社は協議の結果、本番稼働を2010年1月に延期した上で、2009年7月時点で仕様を凍結することで合意した。だが、その後も追加の要望は止まらない。裁判資料でのNTT東日本の見解によれば、旭川医大は仕様凍結後、さらに171項目の開発を要望した。旭川医大はこの件について「仕様凍結とは『新たな機能の開発要望をしない』だけで、画面回りの要望は当然に許される」と主張している。

 NTT東日本は結果として、171件のうち136件の開発を受け入れた。スケジュールは遅延。SEの増員で挽回を狙ったが、稼働予定日までにシステムを引き渡せなかった。

 旭山医大は同年4月、期日通りにシステムを納品できなかったとして、NTT東日本に契約解除を通告した。NTT東日本は2010年8月、不当な受領拒絶でリース料を受け取れなくなったとして、約22億8000万円の損害賠償を求めて旭川医大を提訴した。旭川医大も、新システムの導入失敗に伴う逸失利益など約19億4000万円を求めて反訴した。

「仕様凍結」後も画面は修正できるか

 旭川地裁が2016年3月の判決で「責任の8割を負う」としたのは、追加開発を迫った旭川医大でなく受け入れたNTT東日本だった。裁判で争点になったのが、旭川医大が仕様凍結後に要望した171件が、契約における開発対象に含まれるか否か、である。

 同地裁はまず、仕様凍結について旭川医大の解釈を否定。軽微な変更でも他の機能に影響する可能性があるため、仕様凍結後の「画面・帳票・操作性の開発要求は、基本的に許されないと解するのが合理的」(判決文)とした。これに基づき、171件のうち92件は元の仕様には含まれず開発対象外と認定した。

 だがここから、判決文はNTT東日本の責任を認定する。要望受け入れで開発が遅延すると予測できる場合、ITベンダー側は「(仕様凍結の)合意を理由に拒絶する」(同)か、代替案を示すなどして「原告に開発要望を取り下げさせるなどの対応を取るべき」(同)としたのだ。旭川地裁は、こうした対応をしなかったNTT東日本の姿勢を「原告(本誌注:旭川医大)の追加開発要望に翻弄され、プロジェクト進捗を適切に管理できなかった」(同)と認め、NTT東日本が責任の8割を負うとした。

 一方で、旭川医大にも2割の責任があることを認めた。仕様凍結後も追加開発を要望したことに加え、マスタデータ作成の協力姿勢が不十分だったことなどが、ユーザー企業としての協力義務違反に当たるとした。

 両社は2016年4月、札幌高裁に控訴した。NTT東日本は控訴審で、旭川医大の担当者が「追加の要望を反映しないシステムは、検収で合格させない」とNTT東日本に迫っていたとし、「判決のような(追加開発を拒否する)対応は非現実的だ」と主張している。

 旭川医大は、NTT東日本が追加開発について硬直的な態度でプロジェクトに臨んでいた点について、NTT東日本に失敗の原因があると改めて主張した。双方とも本誌の取材にはコメントしなかった。

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら