あるいは、遺族に事情を伝える際に業務上の必要性を説明して、限定的にAさんのスマホを使わせてもらうことも不可能ではないかもしれない。ただ、それは法的な判断と離れた措置であることは頭に入れておく必要がある。

会社支給の端末に入れた個人アカウントのサービスはどうなる

 Aさんが会社支給のパソコンとスマホを使っていたとして、その中に個人アカウントで利用している名刺管理ソフトやSNSがあった場合も、(社則に違反しているか否かの観点は別にして)当該サービスへのログインは慎重になったほうがいい。

 一身専属性のサービスなら、Aさん以外がAさんをかたってアクセスすることはNGとなる。たとえ会社支給の端末であってもその原則は変わらないので、私的使用の領域は取りあえず触れないのが無難だ。

 個人で取得したアカウントで社用ツールとして活用している場合は判断が難しい。例えば、Twitterアカウントを個人のメールアドレスで取得して業務の公式アカウント的に運用するようなケースだ。

 これは社員が退職した例だが、あるSNSにおいて会社の事業部の公式アカウントを個人名義で取得した社員が引き継ぎをしないまま去ったため手が出せない状態になった、といったトラブルも実際に起こっている。

 会社はパスワードを把握していなかったが、元社員とは連絡が取れない。SNSの運営元に連絡し、業務目的で取得したアカウントであることを説明したところ、証明として契約時の幾つかの情報があれば引き継ぎに応じてくれることになった。しかし、事業整理で部門が閉鎖されたことによる退職だったため、書類が見つからず放置せざるを得なくなった。

 様々な要因が絡んだ結果ながら、当初から会社がアカウント情報を把握していれば避けられたトラブルと言える。

所有をはっきりさせるのが、会社のデジタル終活

 社員個人が離脱しても法人は存続する。結局のところ、そこで持ち物を混在させてしまうと、離脱がスムーズにいかなくなるということだろう。

 前述の伊勢田弁護士は中小企業の事業継承をサポートする緊急事業継承監査協会の代表理事も務めている。そこで経営者に強調するのは、日ごろからパソコンやスマホを会社名義にしておくことだ。「個人名義のスマホやパソコンを会社で使っていると、自分が亡くなったときに所有権が家族に移ってしまいます。場合によっては社員が仕事のデータにアクセスできなくなるので、所有ははっきり分けておくことを推奨します。後はパスワードの扱いも重要ですね」(伊勢田弁護士)。

 やはり社員も会社も平常時からモノの整理を進めておくことが肝心だ。特に数多くの契約や所有を抱え込めるデジタル環境は日ごろから意識的な整理整頓をしておくことが望ましい。それが万が一の事態への備え=終活になると言える。

古田 雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれ。建設業界と葬祭業界を経て2002年にライターへ転職し、テクニカル系の記事執筆と死の周辺の実情調査を進める。「古田雄介のアキバPick UP!」(ITmedia PC USER)、「インターネット跡を濁さず」(d.365)、「ネットと人生」(インプレス シニアガイド)などを連載。著書に「ここが知りたい! デジタル遺品」(技術評論社)、「故人サイト」(社会評論社)、「死とインターネット」などがある。