相続税は3000万円+法定相続人数×600万円の基礎控除を超えた分の財産が対象。1億円相当の仮想通貨を残して亡くなった“億り人”に配偶者と子供2人がいた場合、1億円-(3000万円+3×600万円)=5200万円が課税対象となり、相続税は400万円近くになる。相続人が子供1人だった場合は課税は1200万円程度まで上がるし、他の財産があればそれらが足されて対象額はさらに大きくなる。

 こうしたリスクはネット銀行やネット証券に残した“法定通貨”の資産と基本的には変わらない。しかし、仮想通貨は冒頭のクアドリガCXの例のように、秘密鍵が分からないと誰も手出しできないリスクがある。

 秘密鍵を分からない遺族の元に、突然数百万円の相続税が課税される。そんな事態が発生しうるのだ。

 2018年3月の参議院財政金融委員会では、藤巻健史議員と藤井健志国税庁長官代行の間で次のような質疑応答があった。

藤巻議員:仮想通貨の相続時の税制についてお聞きしたいんですが、仮想通貨のリスクというのは、パスワードを忘れちゃうともう引き出せないということがあるわけですね。(中略)それでも相続税は掛かるのかどうか。

藤井氏:仮想通貨に関連いたしますビジネスがまだ初期段階なんだと思います。そして、パスワードとの関係でございますが、一般論として申し上げますと、相続人が被相続人の設定したパスワードを知らない場合であっても相続人は被相続人の保有していた仮想通貨を承継することになりますので、その仮想通貨は相続税の課税対象となるという解釈でございます。

(出所:国会審議映像検索システム)

 秘密鍵を含むパスワードに関して「知らない」「忘れた」は通用しないというわけだ。

 しかも、仮想通貨業界は従来の金融業界よりも歴史がはるかに浅く、相続のノウハウが積み上がっていない。仮想通貨の取引所に、従来の銀行や証券会社のようなサポートは望むべくもない。

 また仮想通貨は、保管方法が他の金融資産と異なる点も留意する必要がある。仮想通貨は持ち主がそれぞれのウォレット(財布)で管理するが、その置き場所はネット上(ウェブウォレット)、スマホ内(モバイルウォレット)、パソコン内(デスクトップウォレット)、紙(ペーパーウォレット)、専用端末(ハードウエアウォレット)などと様々だ。遺族はウォレットの場所とパスワードを知らないと、残された仮想通貨にアクセスできない。

 伊勢田弁護士は「へそくりであっても、自分に万が一のことが起こったときにウォレットの場所やパスワードが家族にきちんと伝わるように、意識しておくことが大切です」と強調する。

 国内においては“億り人”の相続で大問題が発生したという事例はまだ聞かない。発生しても極めて珍しいケースであると思うが、その当事者にだけはならない(させない)ように気を付けたい。

古田 雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれ。建設業界と葬祭業界を経て2002年にライターへ転職し、テクニカル系の記事執筆と死の周辺の実情調査を進める。「古田雄介のアキバPick UP!」(ITmedia PC USER)、「インターネット跡を濁さず」(d.365)、「ネットと人生」(インプレス シニアガイド)などを連載。著書に「ここが知りたい! デジタル遺品」(技術評論社)、「故人サイト」(社会評論社)、「死とインターネット」などがある。