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 2019年5月10日、ライドシェア最大手の米ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)が株式上場を果たした。その前日、同社の筆頭株主でもあるソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は決算説明会で、ライドシェアが日本で規制されている現状について「日本の進化を遅らせ、世界に誇れる日本の自動車産業ごと根底からやられてしまう危険すらある」との危機感を示した。日本が“鎖国”の対象としているライドシェアは、昨今話題の「MaaS」の中核サービスであるためだ。実際、ウーバーや競合の米リフト(Lyft)はMaaSという言葉こそ使っていないが、その先端を行くサービスや実験を次々に手掛けている。日本にはあまり伝わってこないその実態を、日本企業の元駐在員でシリコンバレーに24年在住し、現在はリフトの運転手をしている吉元逸郎氏に解説してもらう。(内田 泰=日経 xTECH)

サンフランシスコ市の「チャイナ・ベイシン(China Basin)」という地区にあるリフトの本社前
(写真:筆者)
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「ねぇ~、ねぇ~、お客さん、最近よく聞くMaaSって、なぁ~に?」

 リフトの本社前でピックアップした、社員と思われる乗客にこう尋ねた。

「Mars(火星)? それともMetal as a Serviceのことか?」

「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と、NHKの番組のキャラクターである「チコちゃん」のまねをしようと思ったが、米国人にはこんなジョークは通用しないだろう。黙って聞き流した。

 同じ質問を複数の乗客に投げかけてみたが、日欧の自動車業界やIT業界関係者などの間で流行っている「MaaS(マース:Mobility as a Service)」という言葉を知っている人はいなかった。

 実際、ウーバーやリフトが米証券取引委員会(SEC)に提出したS-1資料(証券登録届出書)の中には、MaaSという言葉は1カ所も出てこない。「ライドシェア先進国」の米国では、「MaaSって何?」というのが率直な反応なのだ。

リフトの「TaaS」、中身はMaaSと同じ

 リフトの創業者であるローガン・グリーン氏とジョン・ジマー氏は、「信頼性が高く手ごろな料金で利用できるサービスを求めている人々と、友好的な地元ドライバーをアプリでマッチングする世界一の交通手段(Transportation)を提供して、人々の暮らしを良くしよう」と、今から7年前の2012年に同社を起業した。

 リフトはモビリティー(移動性)という言葉を使わず、「世界は車の所有から交通手段をサービスとして利用するTaaS(タース:Transportation as a Service)へ移行し始めている」という表現でライドシェアを訴求している。

 現実にはTaaSもMaaSも同様のコンセプトだが、欧州で先に使われていたMaaSという言葉を使いたくなかったのかもしれないし、米国ではMaaSが「Metal as a Service」、具体的には「物理マシンをクラウドサービス的なインターフェースで使う」ためのソフトウエアの意味で使われていたこともその理由かもしれない。

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