機械式腕時計の売り上げが順調に伸びる中、そのラインアップを増やすセイコー電子工業。顧客からの熱い要望もあり、クロノグラフ、そして機械式「グランドセイコー」を市場に投入することが決まった。この2つを商品化するに当たり、設計部は新規ムーブメントを設計するという決断をする。奮い立つ若き設計陣。だが、彼らには余裕をもって設計する十分な時間は与えられていなかった。

左から重城幸一郎、大平 晃
(写真:栗原克己)
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 セイコーの機械式腕時計が20年の深い眠りから覚めて5年の歳月が流れた。1997年。ついに、複雑時計の代表格であるクロノグラフと、セイコーのフラッグシップ・モデル「グランドセイコー」の商品化が決まった。片や、機械式腕時計の技の粋を集めるモデル。片や、セイコーブランドの頂点に君臨するモデル。この2つの機械式腕時計を市場に投入して初めて、機械式腕時計の復活物語は最終章を迎える。ところが、その物語が今、未完の危機にさらされようとしていた。

 時間がない──。セイコー電子工業設計部の若手のホープ、高橋岳と重城幸一郎が頭を抱える。彼らの提案で、新規ムーブメントを一から起こすことになったものの、設計は遅々として進まない。

 クロノグラフとグランドセイコーの各ムーブメントのベース部分を共通化した上で、精度を確保するための要となるてんぷ周りは重城、クロノグラフのストップウオッチなど複雑機構は高橋と、設計を分担して効率化したにもかかわらず。理由は、彼らにとって機械式腕時計の新規設計が初めてのことに加えて、クロノグラフは複雑さで、グランドセイコーは精度で、従来のラインアップとは比較にならないほど高いレベルが要求されていたからだ。

 2人は未開の原野をさまよい続ける。クロノグラフ、1998年初め。グランドセイコー、1998年末。この発売時期という目に見えぬ重荷を背負って。

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