米国シリコンバレーに本拠を持つFenox Venture Capital(以降、Fenox)はグローバルで140社以上に投資した実績を持つベンチャーキャピタル(VC)だ。ただし、現在運用する25のファンドのほとんどは、事業会社1社がLP(出資者)となり、FenoxがGP(運営者)となって運用する「二人組合」。いわゆるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)である。有望なスタートアップ企業に投資して金銭的リターンを得るだけでなく、出資者である企業のビジネスの成長のために、戦略的な投資を行っているという。CVC中心の運営になった背景には、米IBMでの経験が大きなヒントとなったと、Fenox Venture Capital 共同代表パートナー&CEOのアニス・ウッザマン氏は語る。(聞き手=日経ものづくり編集長 山田 剛良、構成=安蔵 靖志)
日本の大学を卒業して米IBMに入りました。IBMでは戦略投資や合併吸収に関わっていました。IBMは100年以上の歴史を持つ古い会社ですが、IBMは今でもスーパーコンピューターでもAI(人工知能)でもナンバーワン。ビッグデータや量子コンピューターでも大きな存在感を持っています。この背景にはM&A(合併・買収)と戦略投資のパワーがあるのです。IBMを卒業してVCを作ったときに、このモデルを大きくしたいという思いがありました。
当初は複数のLPが参加する一般的なファンドに近い形だったが、企業間の事業提携をサポートしていきたいという思いが最初からあった。それを推し進めて、顧客企業ごとにプライベートファンドをつくり、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)として運営していく考えに至ったという。
CVCというイノベーション、顧客が新たな顧客を口コミで呼ぶ
顧客企業ごとにCVCを運営する形にすると、M&Aがスムーズに行えるようになったのです。FenoxはIBMのエッセンスでつくりましたが、そこでイノベーションを起こしました。顧客のニーズに合わせて変えていっただけだったのですが、ニーズのおかげでここまで成長できました。今、我々の所には問い合わせが殺到していて様々な企業からお声がけをいただいています。なぜかというと実際に運用がうまくいっているからです。我々にとって25のファンドのサポートは最も重要な仕事の1つです。カスタマーサポートがうまくいかないと顧客が不満を持つからです。難しいオペレーションをスケール化できたのは、IBMで大きな組織を動かしていたノウハウが生きているからです。
ウッザマン氏によると、Fenoxのようにプライベートファンドを多数運用しているVCはほとんど無いという。
我々のようなスケールでプライベートファンドを運営しているVCは他に見当たりません。オペレーション能力が高くてカスタマーサポートが強いだけでなく、事業をスケール化しなければなりません。シリコンバレーは人材コストは日本の2倍以上。全体で見ると高コスト人材を使いこなすオペレーションが難しいからではないかと思います。
ファンドを運用してスタートアップを支援するだけでなく、そこにプライベートファンドとして投資する日本企業のサポートも同時に行わなければならない。
日本の企業は細やかです。それぞれの企業ファンドに担当者を割り当ててサポートをしていくやり方はそう簡単にまねできません。一方で最初にうまくいくモデルを作れないとなかなか人がついてきません。我々も1~2社のファンドだった最初は苦しかった。今は25のファンドでお互いにフォローし合って運用できる。担当者それぞれがお互いの顧客のファンドについて情報交換すると、どんどん口コミが広がっていくというのを今感じています。いろいろな会社が我々を使ってくれて満足していただいて、それをお互いが話すことで自然に紹介が増えています。
Fenoxの顧客が新たな顧客を口コミで呼んでいる状況だとウッザマン氏は話す。
信じられないことですが、双日の紹介である大手企業に約50億円のファンドを提案する準備をしています。自分が実際に使っている会社として紹介してもらえるとそれだけで信頼度が違います。またグループ企業でファンドをつくった大手持ち株会社から、別のグループ企業でも我々とファンドをつくりたいという話ももらっています。
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