多様な提案が入り乱れる

 組み込み機器の裾野の広さを考えると、AIチップに求められる処理能力は千差万別になるだろう。例えば映像に映った人数をカウントするだけの監視カメラと、複数のカメラやLiDARなどをフル装備した自動運転車が同じチップを使うとは考えにくい。既存のマイコンのように、用途に応じて多彩なラインナップが登場しそうだ。

 こうした将来を見越して、様々な組み込み向けAIチップが提案されている。組み込み向けCPUコアで圧倒的な存在感を示す英Armは「Project Trillium 」で独自の推論処理向けコアを開発しているほか、NVIDIAがオープンソース化した専用回路NVDLAを利用することも表明(発表資料)。米Cadence Design Systems(関連記事)や米CEVA(関連記事)といったDSPコアを手掛ける企業も、次々に推論処理に特化したIPコアを発表している。

 日本国内でも、デンソーの子会社NSITEXEが米ThinCIと共同で「DFP(Data Flow Processor)」と呼ぶ独自プロセッサーを開発(関連記事)。ルネサス エレクトロニクスは、動的に回路の再構成が可能なDRP(Dynamically Reconfigurable Processor)技術をAIのアクセラレータに用いた製品を2019年後半に投入する計画だ(発表資料)。このほか、NEDOが公募した「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/【研究開発項目〔1〕】革新的AIエッジコンピューティング技術の開発」事業の委託先には、三菱電機やNECといった大手電機企業からアクセルやアラヤといった新興企業までが名を連ねた(発表資料)。

大手電機からスタートアップまで
NEDOが公募した「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/【研究開発項目〔1〕】革新的AIエッジコンピューティング技術の開発」の委託先には多くの国内企業が名を連ねた。(出典:NEDOの発表資料(http://www.nedo.go.jp/content/100882166.pdf))
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混戦状態から抜け出せるか

 AIチップを開発する企業は、実際の市場で戦いながら、まずは個別の用途ごとに標準の座を目指すことになりそうだ。優勝劣敗が鮮明になるまでには、今後何年もかかる見込みである。ディープラーニング技術自体が発展途上であり、産業応用もまだまだ手探りの段階であるからだ。標準的なベンチマークの確立(関連記事)や、オープンソースソフトウエアが中心の開発環境を有償でサポートする動き(例えば米MathWorksのMATLAB、関連記事)、異なる開発環境で開発したAIの互換性確保(関連記事)などもまだまだ改善の余地が大きい。 

  他者に先行する企業の条件を1つ挙げるとすれば、先進的なユーザーと密接な関係を築くことだろう。AIチップに先々求められる機能をいち早く知るためには、業界をリードする使い手との共同開発が一番だ。

 この点で先行する企業は、AIチップの世代が変わるごとに、大幅な性能向上を果たしてきた。NVIDIAのXavierは前世代の「Parker」と比べてAI処理の性能を25倍、Apple社の第2世代Neural Engineは第一世代の8倍に高めた。いずれも、AIを応用する開発者が従来よりも格段に高い性能を要求したためと見られる。AIチップの分野で日本企業が存在感を示すためにも、AIの新たな用途を切り開く企業との連携が不可欠になるだろう。

»日経BP総研のWebメディア「ものづくり未来図」から転載