ムーアの法則からDSAへ

 AIチップの開発が重要になるもう一つの大きな理由が、ムーアの法則(Moore's law)の終焉である。同じチップ面積に集積できる回路規模が1〜2年で倍増する現象を指すこの経験則が、いよいよ立ち行かなくなってきた。大手ファウンドリーの米GLOBALFOUNDRIESが今後の微細化を凍結するなど、チップ面積が決まれば回路規模も定まる時代が迫っている(関連記事)。これまで半導体の性能向上を牽引してきたエンジンがついに停止するのだ。

 微細化が止まった後でも半導体の処理性能を高めるにはどうすればいいのか。その手段として注目を集めるのが「DSA(Domain Specific Architecture)」という考え方である。簡単にいえば、特定分野向けの専用回路を利用して汎用のプロセッサーを超える性能を実現する方法だ。

 2018年5月、Googleの開発者向けイベント「Google I/O 2018」で「コンピューティングの未来(The future of computing)」と題したセッションに同社の親会社Alphabet社の会長、John Hennessy氏が登壇。RISC(Reduced Instruction Set Computer)の生みの親で著名なコンピューター科学者でもある同氏が強調した今後の方向性がDSAである。同氏がDSAの一種として挙げたのがディープラーニング向けの専用プロセッサーであり、同氏も開発に携わったGoogleのAIチップ「TPU(Tensor Processing Unit)」はまさにその代表例といえる。

コンピューティングの未来はDSA
2018年5月の「Google I/O」で「Future of Computing」と題して講演したJohn Hennessy氏。(出典:同社の動画(https://www.youtube.com/watch?v=Azt8Nc-mtKM)から)
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 DSAが主流になると見るのは同氏だけではない。FPGA最大手、米XilinxのCEOのVictor Peng 氏は2018年8月開催の高性能プロセッサーのシンポジウム「Hot Chips 30」の基調講演で、FPGAのような柔軟性のあるハードウエアとDSAの組み合わせが今後進むべき道と主張した。2018年10月に、同社は実際にこの発想に基づく新製品を発表。FPGAとCPUや各種の専用処理回路を組み合わせるもので、専用回路の1つとして「AI Engine」を用意する。既に複数の主要顧客への供給を開始しており、一般向けには2019年後半から販売を始める予定だ(関連記事)。

FPGAとAIエンジンを組み合わせる
米XilinxはCPUコア混載FPGAの新製品「Versal」シリーズの一環で、推論処理を高速化する「AI Engine」を組み込んだ製品を2019年に発売すると発表した。(出典:Xilinx)
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»日経BP総研のWebメディア「ものづくり未来図」から転載