「極めて不愉快ですよね。なにか生命に関する侮辱を感じます」ーー。

 穏やかですが、強い拒絶を示す言葉に会議室が一瞬にして凍り付きます。2016年11月13日にNHKで放映されたドキュメンタリー「終わらない人 宮﨑駿」(NHKのWebページへのリンク)の1シーンです。

人工生命を作り上げて人類を滅ぼすのじゃ
(イラスト:闇雲)
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 アニメーション監督の宮崎駿さんが、新たにフルCGの短編アニメーション制作に取り組む姿を追った内容でした。既に世界的に名を遂げた宮崎監督が、若いスタッフと一緒に、CGという新しい技術による表現を生み出そうとする。その執念に感動しながら見ていました。

AIを使って制作した人工生命の画像に激怒?

 冒頭のシーンはドワンゴの川上量生会長(当時)が宮崎監督に最新の人工知能(AI)技術を使った「人工生命」のデモを紹介したときに起こりました。少なくとも番組内では、宮崎監督がこのデモに激怒したように構成されていました。

 番組で紹介されていた人工生命は人のような形のちょっと不気味な物体が、手や足や体を異様に動かして目的地へ移動するものでした。その物体は「痛み」を感じないようにプログラムされているので、本当の人間では痛くてできないような動きができ、例えば頭を地面に擦り付けて、足のように使って移動できるといった解説がされていました。

 「生命に関する侮辱」とまでおっしゃった宮崎監督が、本当は何を感じておられたのかまでは、放送から十分に把握できませんでした。しかし、このデモが何かしらの感情的な影響を監督に与えたのは確かなようです。

 宮崎監督はある意味正しくて、人工生命(Artificial Life)は「生命」と称していますが、生命そのもののシミュレーションではありません。そもそもシミュレーターを作れるほど、我々は生命を知りません。人工生命は生命を持つものと似たような動きをする特別なアニメーション・プログラムを指します。英語を略して「AL」「ALife」「A-Life」などとも呼ばれます。

 言葉としては、最近ブームの「人工知能(AI=Artificial Inteligence)」と似ています。ALが機械で「生命的な動き」を作る試みで、AIは機械で人工の「知性的な働き」を作る試みです。ALが生命を理解せずに作られているのと同様に、AIも知性を完全に理解した上で作られていません。

 AIやALの研究では実際の「知性」や「生命」の分析から組み立てていくアプローチもありますが、むしろ取りあえずそれっぽく動くプログラムを作ってみて、その過程で本質に迫ろうという実験的な研究アプローチです。

 この「人工生命」の始祖の一人がかの大天才、フォン・ノイマン博士です。

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