「コンピューターが無ければ計算不能な複雑性と不規則さを抱えた柱のデザインが自然の森のような空間に近づく、極北の建築。パビリオン建築史の大事件である。同時に『かわいい』の感覚も備える」

 建築史家で東北大学教授の五十嵐太郎氏がそう評するこの建築、お分かりだろうか。筆者(日経アーキテクチュア編集長の宮沢洋)も現地に行ってみて、ほぼ同じ感想を持った。「コンピューターが無ければ計算不能」「森のような空間」、そして「かわいい」……。こんな建築を見たことがない。

森のように不規則に立つ白い柱。何の建物か分かりますか(写真:日経アーキテクチュア)
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 今回紹介するのは石上純也氏(石上純也建築設計事務所代表)の設計で2008年に竣工した「神奈川工科大学KAIT工房」である。神奈川県厚木市にある神奈川工科大学キャンパスの中央広場にある平屋の工房だ。

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 2019年4月1日発行予定の書籍「検証 平成建築史」(内藤廣+日経アーキテクチュア著)のための企画として、「平成の10大建築」を選定した。建築分野のキーパーソン20人に「私の平成建築10選」を挙げてもらい、その得票数で「平成の10大建築」を選定した(20人の顔ぶれはこちらを参照)。その結果をひと足先に、カウントダウン形式でお伝えしている。

現在の南東側外観。西面と南面の一部には遮熱のためにカーテンが取り付けられているが、東面は竣工時とほとんど変わらない透明感だ。以下、特記以外は2018年12月に撮影(写真:日経アーキテクチュア)
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平成の10大建築─4位
(6票獲得した同数4位が3件)
神奈川工科大学KAIT工房
設計:石上純也建築設計事務所
竣工:2008年1月

 神奈川工科大学KAIT工房は、完成翌年の2009年、日本建築学会賞作品賞を受賞した。このとき、石上氏(1974年生まれ)は35歳。30代半ばでの同賞受賞は極めて珍しい。アカデミズムの先生方が「35歳の若手建築家」の建築を、「これは歴史に残る」と認めたわけで、五十嵐氏が「建築史の大事件」と言うのもうなづける。

 どこがそんなにすごいのか。今回は筆者がリポートする。

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