「絶えずその時代の持つ表現の志向性を増幅して建築を発信する○○○氏の代表的な建築。現在の表現法につながっていく初期の作品だけに純度が高く、発信性も強い」──。

 竹中工務店常務取締役の菅順二氏がそう評するこの建築は何か、お分かりだろうか。「○○○」と伏せた設計者名部分には、恐らく今、一般の人が最もよく耳にするであろう人気建築家の名前が入る。その建築家の“転機”とされる建築だ。

施設を南北に貫く通路。何の建物か分かりますか?(写真:三島 叡)
[画像のクリックで拡大表示]

 これまで紹介してきた「関西国際空港旅客ターミナルビル」や「東京駅丸の内駅舎保存・復原」に比べると、一般の人にはなじみの薄い建築かもしれないので、大ヒント。設計者は隈研吾氏。このスギのルーバーを見ればお分かりになるだろうか。

エントランスホールから風除室の方向を見る。スギのルーバーの重なりが特徴。そろそろ分かりましたか?(写真:三島 叡)
[画像のクリックで拡大表示]

 もったいぶったが、答えは隈氏の設計で2000年、栃木県馬頭町(現在は那珂川町)に竣工した「馬頭町広重美術館」である。町村合併により現在は「那珂川町馬頭広重美術館」となっている。

[画像のクリックで拡大表示]

 現在編集中の書籍「検証 平成建築史」(2019年4月1日発行予定、内藤廣+日経アーキテクチュア著)のための企画として、「平成の10大建築」を選定した。建築分野のキーパーソン20人に「私の平成建築10選」を挙げてもらい、その得票数で「平成の10大建築」を選定した(20人の顔ぶれはこちらを参照)。その結果を一足先に、カウントダウン形式でお伝えしている。

平成の10大建築─7位
(5票獲得した同数7位が4件)
馬頭町広重美術館(現・那珂川町馬頭広重美術館)
設計:隈研吾建築都市設計事務所
竣工:2000年3月

馬頭町広重美術館(現・那珂川町馬頭広重美術館)の北側外観(写真:三島 叡)
[画像のクリックで拡大表示]

 隈研吾氏といえば、2020年東京五輪・パラリンピックの開閉会式会場となる新国立競技場や、JR山手線・京浜東北線の新駅・高輪ゲートウェイ駅などで設計の中心になっている人気建築家だ。内外装によく「木」を使うことで知られる。2019年2月28日、東京・中目黒にオープンした「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」でも、外装全体にスギ板を大胆に張っている。

隈研吾氏の最新作、「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」の外観見上げ。2019年2月28日、東京・中目黒にオープンした(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

 馬頭町広重美術館がなぜ隈氏の転機といわれているかというと、隈氏はこの建築が竣工する前の約10年間、大きな話題となる建築が無く、その前の話題作はというと、こんな建築だった。

1991年に竣工した隈研吾氏前期の代表作「M2」(写真:磯 達雄)
[画像のクリックで拡大表示]

 「ポストモダン」の代表的建築に挙げられることも多い「M2(エムツー)」(1991年、東京都世田谷区)だ。知らずに見れば、同じ建築家の設計とはとても思えないだろう。

 馬頭町広重美術館を「平成の10大建築」に推薦した1人が、建築史家の五十嵐太郎氏(東北大学教授)。五十嵐氏のナビゲートで、この建築が隈氏のその後に与えた影響を読み解く。

(ここまで宮沢洋=日経アーキテクチュア編集長、以降は五十嵐太郎=東北大学教授)

この先は有料会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が4月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら