PoC(Proof of Concept、概念実証)は進むが、実際のビジネスでの成果に結び付けることができない――。デジタル変革をPoCで終わらせないための勘所を先進企業に学ぼう。

 新サービスのアイデアがひらめいたら、手早くPoC(Proof of Concept、概念実証)を進めるのがデジタルトランスフォーメーションのセオリーだ。しかし、実現したいことの難易度が高いとシステムに落とし込めず、PoCにさえ進めずにプロジェクトがいきなり停滞することがある。

 全日本空輸(ANA)は先進的なデジタル化プロジェクトを複数手掛ける中で、こうした苦悩を経験した1社である。ビジネスのデジタル化を進める中で新サービスのアイデアを考案したが、システムにどう実装すればよいのか分からず、PoCに入る直前に早くも頓挫した。

 プロジェクトの発端は、2013年まで遡る。目的はデジタル技術を活用した顧客サービスの向上だ。当時、スタッフのサービスレベルは「世界トップクラスと自負していた。しかし、デジタル活用では外資系航空会社に劣っているという危機感があった」(ANA広報)。

 そこでプロジェクトチームには顧客サポート部門や企画部門、オペレーション部門、システム部門などから担当者が集められた。そこでどのようなサービスを実現すべきかを話し合い、ANAが今後目指すべきサービスの姿を網羅的に定義することにした。

 こうしてANAが実現したいサービスの全体像を文書にしたのが社外秘のドキュメント「サービスガイド」で、2015年に完成した。

 サービスガイドには、顧客接点となる13のシーンが規定されている。13シーンとは「旅行の計画策定時」「予約時」「搭乗手続き時」などだ。これらの各シーンにおいて、どんなサービスを実行すべきかが書いてある。

ANAが規定した13の顧客接点を示すイラスト
(出所:ANA)
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 ANAでは社内で、顧客の期待を超える感動を与えることを「マジック」と呼ぶ。「マジックを提供するための基本的な考え方をサービスガイドで整理した」(ANA広報)。

 サービスガイドに記載した「理想」は、例えばこのようなものだ。コールセンターで受けた顧客の要望を空港スタッフも把握しており、すぐに話が通じる。顧客にオーダーを聞かなくても、過去の履歴を基にして好みの機内食やドリンクを提供できる。誕生日や結婚記念日に搭乗した顧客には、手書きのメッセージカードを渡す、など。

 実際にはシステムの裏付けがないため、実現不可能なアイデアも含まれていた。「将来的に実現できればいい」という視点で、まずは理想像を定義した。

実装方式を決められずに停滞

 サービスガイドを作ることで、実現したい姿は見えた。問題はこの後に起きた。どのようなITシステムを作ればよいのか、決められなかったのだ。

 サービスガイドに記載したアイデアをシステムを使って実現しようとしたとき、欠かせない要件が2つある。1つは、予約や発券業務を支える旅客システムやマイレージ管理システム、コールセンターシステムなど、複数の基幹系システムに格納されている顧客情報をリアルタイムに取り出せること。もう1つは、空港スタッフや客室乗務員、コールセンターのオペレーターなど、部門や立場を越えて顧客情報を共有できることだ。

 最初に検討した実装方式は、複数の基幹系システムに分散しているデータを物理的に集約した、巨大なデータベースを構築することだった。当時のシステム名は「新お客様情報システム」としていた。

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