地方で営業している複数のバス会社を抱えるみちのりホールディングス(HD)は、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)の肝はデータだと考えている。傘下のバス会社が持つ時刻表などのデータを「GTFS-JP」という標準形式で統一。オープンデータとして公開することで、バスの利用を促そうとしている。具体例を1つ紹介しよう。

 「きょうは宇都宮に出張。栃木県庁での用事が済んだので、東京に戻る前に名物のギョーザを食べて帰ろう。地元の有名店に行ってみたいなあ」

 Aさんがこう思い立って行動に移そうとしたとき、まず頭に浮かぶのはタクシーだろう。北関東で最大の街である宇都宮市に、路面電車や地下鉄はない。JR東日本や東武鉄道のローカル線は本数が少ないうえ、市内の移動には不便だ。

 そこで栃木県庁前で客待ちをしていたタクシーに飛び乗り、運転手が薦めてくれた郊外のギョーザ専門店に直行した。おいしいギョーザを堪能できたが、そうこうしているうちに時間を忘れ、つい長居してしまった。急いで宇都宮駅に向かわないと、帰りの新幹線に乗り遅れる。

 だが東京とは違って、流しのタクシーは全く見当たらない。タクシー会社に電話をして迎えに来てくれるのを待って宇都宮駅まで移動しても、予約していた新幹線には間に合いそうにない。

 焦ったAさんはすがる思いでスマートフォンのアプリ「Googleマップ」を開き、宇都宮駅までのルートを調べた。するとギョーザ店の近くには「滝の原バス停」があるようだ。定刻よりも4分遅れているが、7分後にはJR日光線の鶴田駅に向かうバスが来る。JR日光線は1時間に1~2本しかない路線。乗り遅れたら大変だが、バスで鶴田駅まで行ければ、宇都宮駅行きの電車にちょうど乗り継げる。こうしてAさんは何とか新幹線に乗ることができた。

宇都宮市内でGoogleマップを使って経路検索した例。バスと鉄道を乗り継ぐルートが表示される。関東自動車のバスは分単位で遅延が反映される
(出所:Googleマップアプリ)
[画像のクリックで拡大表示]

バス業界の「再生請負人」がデータ共通化

 Aさんが乗ったバスは、栃木県を地盤とする関東自動車が運営するものだ。同社は多くの地方バスと同様に自家用車に顧客を奪われ、利用者が減って経営不振に陥り、2004年に産業再生機構の支援を仰ぐことになった。そして2012年には、みちのりHDの傘下に入っている。

 みちのりHDは、産業再生機構出身の冨山和彦氏が代表を務め、企業の再生・成長支援を手がける経営共創基盤の下で鉄道・バス事業を統括している。傘下には関東自動車の他、岩手県北自動車や福島交通、会津乗合自動車(会津バス)、茨城交通、日立電鉄交通サービス、神奈川県の湘南モノレールなどがある。北関東や東北のバス網で高いシェアを持つ。

 傘下の企業は独立性を保ちながら経営を続けているが、IT活用やMaaSに関しては、みちのりHD主導で取り組みを強化している。小田急電鉄グループと同じく、自動運転バスの導入にも積極的だ。2018年10月には、日立電鉄交通サービスが茨城県日立市で運行するバス路線「ひたちBRT」で、自動運転バスの走行実験を実施。国内のバス専用道で自動運転バスを走らせた、初めてのケースになった。

みちのりHD傘下の日立電鉄交通サービスが運行する、茨城県日立市のバス路線「ひたちBRT」で自動運転バスの走行実験を実施した。旧・日立電鉄の廃線跡を再利用したバス専用道を走らせた
[画像のクリックで拡大表示]

 そんなみちのりHDがMaaSの要と位置付けるのが、標準形式「GTFS-JP」による路線・時刻表データの共通化とオープンデータの提供である。先ほどの関東自動車の路線バス検索は、GTFS-JPをGoogleマップに提供することで実現した。

この先は有料会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が12月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら