人口が1万人を切る埼玉県の小さな自治体に、大企業やスタートアップ、学生までが押し寄せている。開発中の技術や新コンセプトのサービスを実社会で試してみる、格好の実験場が提供されているのだ。埼玉県横瀬町は、多様な実証実験や新規プロジェクトを立ち上げたい企業や個人に広く門戸を開いている。社会に役立つ技術を育む狙いだが、同町が抱える課題にはこだわらず、他の自治体が敬遠するような斬新な試みももろ手を挙げて支援する。根底に流れるのは、何とかして外部の活力を呼び込まないと町が途絶えてしまうという強烈な危機感だ。「パブリテック(=パブリック×テクノロジー)」連載の第3回は、横瀬町で一連の取り組みをけん引してきた富田能成町長と同町役場 子育て支援課 副課長(2019年3月当時)の大畑忠雄氏に、狙いと現状、今後のビジョンを語ってもらった。(聞き手は今井 拓司=ライター)

横瀬町町長の富田能成氏
(写真:横瀬町)
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横瀬町は、民間事業者が町内で立ち上げるさまざまなプロジェクトを町を挙げて支援する「よこらぼ」という取り組みを進めている。その発足に至った経緯は?

富田 前提として、横瀬町は消滅可能性都市注1)だということがある。20年後には、町内の人口がほぼ確実に現在の2/3になる。その先も人口は減り続けるので、何とかしないと町が持続できなくなってしまう。ただし、町内の人材や施設、資金といった資源には限りがある。だから、町をもっとオープンにして、人やもの、お金や情報を町外から持ってくるしかないと考えた。

注1)消滅可能都市とは、2010年から2040年にかけて20~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村のことを指す。

 一方で、横瀬町にはチャンスがある。今、地域の課題を自社の技術で解決したいと考えている企業はたくさんあるが、どこの自治体と組んでいいのか分からず、パートナー探しにかなりのコストをかけるなど苦労している。我々は、その要求に応えることができる。横瀬町には自然が豊かで、コミュニティーが協力的という強みもある。

 こうした企業と横瀬町とをつなぐ「官民連携のプラットフォーム」がよこらぼだ。最大の特徴は、横瀬町があらかじめ課題を設定しないことにある。通常、こうした取り組みでは、地域の再生や少子高齢化対策といった地方の社会課題があり、それに対して提案を募る。よこらぼは逆に、企業が持っている技術や製品を前提に、横瀬町のフィールドを使ってください、という立場で提案を受け付けている。

 例えばNTTデータが広域無線技術のLPWA(Low Power Wide Area)の実証実験を横瀬町で実施した(発表資料)。こうした実験の際には基本的に企業が1軒1軒許可を取りにいく必要があるが、我々であればそこまで苦労せずに町内の参加者を集められる。一方で、横瀬町にとってもNTTデータの発表文に名前が出ることの効果はあるし、最新技術の事情にも詳しくなる。LPWAを防災無線に使ったらどうか、といった発想にもつながる。

 横瀬町には「しがらみ」がないことも大きい。大企業もないし、医療関係のプロジェクトをやるときに医師会と利害が対立するというようなこともない。いわば「持たざる者の強み」だ。例えば、固定電話網がない国の方が携帯電話機の普及が早いのと同じだ。

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