様々な社会問題を技術の力で解決し、地域経済に資するビジネスとして運営する。こうした事業の振興で、一歩先を行く地方自治体が神奈川県鎌倉市である。2018年7月には、同市の提案が全国10カ所の自治体SDGs(持続可能な開発目標)モデル事業の1つとして政府に採択された(発表資料)。実際、同市はSDGsの達成につながる手段を次々に繰り出している。同じく2018年7月に3Dプリンターなどを備える工房「Fab Lab」を利用したものづくり活動の世界的なネットワークへの参加を日本で初めて宣言(発表資料)。9月には行政手続きの電子化などでLINEと包括連携協定を締結し(発表資料)、11月にはテレワークの普及を目指す「鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会」を立ち上げた(発表資料)。

 一連の動きを牽引してきたのが、現在3期目の鎌倉市長を務める松尾崇氏だ。同氏が掲げるキーワードの1つが技術を使った社会問題の解決を意味する「パブリテック(パブリック×テクノロジー)」であり、鎌倉市を「パブリテックシティ」の1つとして位置付けていくという。同名を冠した一般社団法人Publitechのサポーターにも名を連ねる松尾市長と、同法人の代表理事を務める菅原直敏氏に、取り組みの現状と将来像を聞いた。

(聞き手は今井 拓司=ライター)

「パブリテック」という標語の下で、鎌倉市は具体的にどのような取り組みをしているのか。

松尾 様々な社会課題を、市役所だけでなく民間企業や住民との共創という形で解決していくのが、鎌倉市の基本的なスタンスだ。2018年の4月に立ち上げた共創計画部という部署が窓口になって進めている。外部からの様々な提案も積極的に受け入れながら、1つの手段としてテクノロジーを活用した課題解決にチャレンジしている。ある意味では鎌倉が実験台になってトライアンドエラーを繰り返す形だ。

 具体的には、資料に挙げたようなプロジェクトを進めている。人財研修やRPAを活用した業務の効率化といった市役所内の取り組みはもちろん、健康福祉や教育など様々な分野が対象だ。外部の企業と協力するものも多い。

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鎌倉市の「パブリテック」に関する取り組み
矢印の中の色の濃さが進捗を表しており、色が濃い部分ほど取り組みが進んでいることを示す。
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 例えば、健康福祉ではボイスタートというベンチャー企業と協力して、高齢者の孤独の解消や認知症予防などを想定したスマートスピーカーの活用実験を2018年10月に実施した(発表資料)。話し掛けるだけで使えるスマートスピーカーは、ITやコンピュータに馴染みの薄い高齢者にも親和性が高い。実際に利用者からはとても高い評価を得られた。2019年の夏ごろに有料サービスとして提供する計画だ。

 市役所の手続きではグラファーというベンチャーと、デジタル行政サービスの仕組みを整えている。例えば転入や転出の際に鎌倉市役所に来ても、手続きが1回で終わらないことがあり、苦情につながっていた。現在試験運用中のウェブサービス「くらしの手続きガイド」にアクセスしてもらえば、簡単な質問に答えるだけで、必要な手続きや用意すべきものが何か事前にわかる。2019年の3月までには、QRコードを市役所のプリンターにかざすと、事前に記入しておいた書類が印刷できるようになる予定だ。もちろん全てペーパーレスでできるのが理想だが、そのためには国が制度を整えることが必要になる。それに向けて自治体でできる準備を進めておくイメージだ。

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