米国と中国による貿易摩擦の影響が拡大している。その渦中にあるのは、中国の通信機器メーカーである華為技術(ファーウェイ)だ。同社に対して米国政府は安全保障上の理由で禁輸措置などの制裁を加えたが、5G(第5世代移動通信システム)を中心に高い技術力を誇る同社の勢いをそぐための経済制裁であるという見方は根強い。

 そこで浮上するのは、「なぜ米国はファーウェイのような通信機器メーカーを自国に確保しなかったのか」という疑問だ。その解明には、通信の歴史を丹念に探る必要がある。国内通信業界の有識者(以下、X氏とする)に、ファーウェイがここまで躍進した経緯や、同社を巡る米国の思惑などについて聞いた。(聞き手は高野 敦=日経 xTECH)

米国政府は表向きこそ「安全保障上の脅威」という理由でファーウェイに制裁を加えていますが、明らかに同社を経済的な脅威としても捉えています。ファーウェイはいかにしてそのような存在になったのでしょうか。

X氏 ファーウェイは、移動通信システムの設備と端末の両方でトップという点に特徴があります。設備では、3強といわれるファーウェイ、スウェーデンのエリクソン(Ericsson)、フィンランドのノキア(Nokia)。さらには、韓国のサムスン電子(Samsung Electronics)と中国の中興通訊(ZTE)。この5社がグローバルレベルです。一方、端末ではファーウェイ、サムスン電子、米アップル(Apple)が上位。中国の小米科技(シャオミ)、広東歩歩高電子工業(BBK)傘下の広東欧珀移動通信(OPPO)や維沃移動通信(Vivo)などが続きます。

 ファーウェイでは、2018年にスマートフォン(スマホ)事業の売上高が基地局事業を上回りました。スマホ事業が前年比で5割近く増えています。同社をずっと見てきた人からすれば、同社はあくまで設備メーカーであって、スマホは後から始めたビジネスという印象なのですが、今やスマホと基地局の2本柱になりました。サムスン電子も設備と端末の両方を手掛けていますが、強いのはやはり端末です。同社の設備は韓国では普及していますが、グローバルではそれほどの存在感はありません。一方、設備で上位のエリクソンやノキアは、端末からとっくに撤退しています。エリクソンは早々に撤退しましたし、ノキアも米マイクロソフト(Microsoft)に売却しました。

 ファーウェイは新興といえば新興ですが、表舞台に出てきたのは基地局のシェアが増えてきた2008~2010年ぐらいでしょうか。ただし、もっと前から基地局メーカーの下請けをしていましたし、一部の企業とは協業関係にありました。下請けから技術力やブランド力を得て、世界のトップレベルに躍り出た代表格がファーウェイなのです。

他社の下請けをしていた頃から実力はあったのでしょうか?

X氏 当時からそれなりの実力はありました。とはいえ、下請けから自社ブランドへと事業転換するには、一般論としてどこかで切り替えるポイントが必要です。ファーウェイの場合、恐らくそのきっかけは、設備メーカーの再編が起きたタイミングだと思います。

 2000年代は、設備メーカーが地域ごとに存在していました。欧州だったらエリクソンやノキア、ドイツのシーメンス(Siemens)、フランスのアルカテル・ルーセント(Alcatel-Lucent)、北米だったら米モトローラ(Motorola)やカナダのノーテルネットワークス(Nortel Networks)、日本でもNECが頑張っていました。これらの企業が自社ブランドで商売していたのです。

 ところが、移動通信システムのグローバル化に伴って、設備でも規模の経済が働くようになりました。自社でつくるだけでは持ちそうにないということで、だんだん下請けに出す設備メーカーが現れたのです。一種の空洞化といえます。

 この頃から、ファーウェイはモトローラやノーテルの下請けをしていました。ブランド力はまだないけれど、設備をつくるノウハウを獲得していったわけです。

その頃は米国政府から脅威として認識されていなかったのですか。

X氏 その頃は特に認識されていなかったと思います。

 設備メーカーの合従連衡が始まったのは2007年ぐらいです。結局、撤退したのは北米のモトローラとノーテルでした。モトローラは端末と設備の両方を手掛けていましたが、分社しました。ノーテルは設備だけでしたが、立ちいかなくなって、チャプター11(米連邦破産法11条)を申請しました。ノーテルの事業は切り売りされて、草刈り場みたいになりました。

 モトローラやノーテルの設備事業は、シーメンスとノキアが折半出資で設立した当時のノキア・シーメンス・ネットワークス(Nokia Siemens Networks)が買いました。つまり、モトローラやノーテルの下請けをしていたファーウェイから見ると、発注元が売られてしまったわけです。その際、ファーウェイはモトローラに対して訴訟を起こしています。ファーウェイは自社の機密情報をモトローラに開示していたのですが、モトローラの設備事業をノキア・シーメンス・ネットワークスに売却すると、その機密情報が流出するとして、売却に異議を唱えたのです。

 訴訟自体は数カ月後に和解となるのですが、それによって分かったのはファーウェイが当時から相応の技術や特許を持っていたということです。設備をつくる力はもともとあったので、あとは開発力とブランド力さえあればという状況でした。逆に、モトローラの事業を買収したノキア・シーメンス・ネットワークスからすると、初めからファーウェイの技術や特許に依存しているようなところがありました。当然、ファーウェイを強く意識することになります。これらの合従連衡と前後して、ファーウェイは中国以外の新興国などでも積極的に営業し、自社ブランドでの設備事業の道を切り開きました。

設備業界が空洞化したのは、ちょうど移動通信システムの世代が3Gから4Gへと移行するタイミングですね。

X氏 その通りです。

3Gの設備投資が一段落し、通信事業者からの受注が減ったことで再編に追い込まれたということでしょうか。

X氏 それもきっかけの1つだと思います。日本の感覚だと3Gの設備投資が一段落したといわれても、あまりピンとこないかもしれません。しかし、特に欧州は厳しい状況でした。そもそも欧州では2000年のITバブル崩壊で、ノキアなどが大きなダメージを受けました。そのきっかけは3Gの周波数帯オークションです。それによって免許の取得に莫大な金額が必要になり、各国の政府は潤いましたが、通信事業者の体力が失われました。欧州では2Gも3Gも、いわゆる「ベンダーファイナンス」でやってきました。小さな通信事業者は投資余力がないので、大手設備メーカーが資金を貸すのです。

 もちろん、それは通信事業者にとっても設備メーカーにとってもリスクになります。3Gが普及しないと通信事業者も設備メーカーも借金を返せないというリスクを負いながら、投資を続けました。しかし、期待通りに市場が成長したアジアに比べると欧州は伸びなかったので、上位の企業は何とかなっても下位の企業は相当追い込まれました。

モトローラやノーテルが売られるときに米国では問題視されなかったのですか。

X氏 もちろんビッグネームの身売りということで、当時は大きな話題になりました。

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