社員160人中、約120人がベトナム人で、うち約70人がAIエンジニア――。

 多くの国内スタートアップがAI(人工知能)技術に精通したエンジニアの獲得に苦戦するなか、異色の人材戦略によって注目を集めているAIベンチャーがある。2016年創業のシナモン(東京・港)だ。

 シナモンは「ホワイトカラーの業務効率化」をテーマに、AI技術を応用した製品を開発している。企業価値は69億円(2018年10月末時点、日本経済新聞推定)。2018年6月には9億円、2019年1月には6億円の資金を調達した。

 その急成長の秘策について、同社の平野未来CEO(最高経営責任者)は「ベトナムの有名大学から数学の素養が高い『天才』を獲得し、AIエンジニアとして育成したことだ」と明かす。

シナモンの平野未来代表取締役CEO
(出所:シナモン)
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 深層学習のニューラルネットワークをゼロから組めるレベルのAIエンジニアは「日本全国に400~500人くらいしかいない」(平野CEO)。このAI人材不足こそ、国内AIスタートアップの成長を妨げる最大の要因である。実際、Preferred Networks(PFN)やLeapMindといった他のAIスタートアップも欧州や中国など海外のAIエンジニアの採用を強化している。

 一方、平野CEOはベトナムの人材に目を付けた。人口約1億人、平均年齢20歳代、コンピューターサイエンスが人気というベトナムにおいて、ハノイ工科大学などトップ級の大学に集まる人材は「質、量共に日本の有名大学をしのぐ」(平野CEO)。特に数学の素養が高い学生は深層学習の基礎を教えただけで、優れたニューラルネットワークの構造を見いだせるようになるという。

 こうした学生に、ベトナムでAI技術を学びながら給与がもらえる半年間のインターンシッププログラムなどを提示し、採用につなげている。コンピューターサイエンスを専攻した学生から年間600人の応募があり、その中から上位5~10%を採用している。

シナモンのベトナム拠点
(出所:シナモン)
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 2018年には台湾でも拠点を立ち上げてAIエンジニアの採用を進めているほか、エジプトのカイロ大学での採用も検討している。採用面で米中の競合企業が少ない非英語圏を中心にAIエンジニアを拡充し、2019年度中に100人、2022年までに500人体制にする考えだ。

AI-OCR、技術開発の主力はベトナム

 シナモンの主力事業は深層学習などのAI技術を応用して手書き文字を高精度に読み込むOCR(光学的文字認識)、いわゆる「AI-OCR」製品事業である。同社のAI-OCR製品「Flax Scanner」は定型帳票だけでなく、請求書や口座振替依頼書といった非定型の帳票についても、社名や会社名、金額などの項目を認識したうえでテキストデータに出力できる点が強みだ。

 非定型の書類を多く扱う金融業や保険業のほか、過去の技術文書をテキストデータにする目的で製造業からの引き合いもあるという。「手書きの化学式を読み取る」など、特定業種に向けた機能の開発も進めている。

 日本拠点の社員は主に製品企画や営業、導入支援を手掛けており、製品開発や顧客ごとのカスタマイズを担う主力はベトナム拠点のAIエンジニアだ。「日本語が分からなくても日本語対応の学習モデルは構築できる。QA(品質保証)を除く開発業務はベトナムが担っている」(平野CEO)。

 豊富な人材リソースを使い、専門用語への対応など顧客ごとにカスタマイズした製品を納入する。米グーグル(Google)や米マイクロソフト(Microsoft)など汎用のAIサービスを展開する大手企業とは競合しにくい事業モデルといえる。

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