AI分野をリードしているのは米中の巨大IT企業だが、レースの勝敗はまだ決まっていない。注目すべき国内AIスタートアップがある。ニッポンAIは捨てたもんじゃない。

 Learn or Die(死ぬ気で学べ)――。この行動指針に沿って、存在感を高めているAI(人工知能)ベンチャーがPreferred Networks(PFN)である。

 PFNは、2019年2月時点で国内唯一のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場スタートアップ)。独自でAIチップを開発するなど、米グーグルや米マイクロソフトに真正面から挑んでいる。PFNはニッポンAIを代表する会社といっていい存在なのだ。

 ニッポンAIの将来を占うためにも、PFNという企業の分析は外せない。PFNは「Learn or Die」という指針に沿って、どのようにAI技術の開発を進めているのだろうか。ロボットに組み込んで使うAI技術の開発プロジェクトを例に、PFNの強さに迫る。

専門性の越境が不可欠

 「企業との提携は長期パートナーシップが前提。短期の契約は受けない」。PFNの比戸将平執行役員研究開発担当VPは同社の方針をこう説明する。

Preferred Networksの比戸将平執行役員研究開発担当VP
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 PFNは他の国内AIスタートアップが手掛けるような「3カ月で成果を出す短期PoC(概念実証)」は受託しない。PFN社員がAIを適用する業務に関する専門性を習得しようとすると、どうしても長期のパートナーシップ関係が不可欠との考えからだ。

 それだけではない。「たとえ専門性が高くても、新しい分野について『そこは専門外だから』と学ぼうとしない人材が多い組織から、イノベーションは生まれない」と比戸執行役員は強調する。

 ロボット制御にAI技術を応用する場合であれば、動作アルゴリズムを開発するAI技術者はロボット制御技術をゼロから学び、ROS(Robot Operating System)の操作を習得する。それらを通じて、ロボット制御がいかに難しいかを肌感覚で学ぶことが求められる。

 「多様な人材を集めても、その専門性が点となって存在するだけでは意味がない。互いに学び、専門性が緩やかにオーバーラップしたチームこそが成果を出せる」と比戸執行役員は話す。そうした越境の過程がないと「プロジェクトがうまくいかない場合に、互いに失敗の原因を押しつけ合うばかりで問題が解決しなくなる」(同)。

PFN幹部、ファナック学校でロボットを学ぶ

 「死ぬ気で学ぶ」という言葉が威力を最大限発揮しているのは、2015年6月から3年半にわたり続いているファナックとの協業だろう。

 ピッキングロボットや射出成型機といったファナックの製品にAI技術を導入するに当たり、PFNはまずファナックの顧客向け講習所「ファナック学校(現ファナックアカデミ)」で操作の研修を受けた。ファナック関連事業の主要メンバーは、幹部を含めて全員研修に参加したという。

 さらにPFNのメンバーは実際に機械を動かしている現場に赴き、視察を重ねた。「機械がどう動いているか」を肌で理解するためだ。それぞれの機械の動作を「腹落ち」して理解するまでに2~3カ月近くかかるという。

 協業相手のファナックも深層学習(ディープラーニング)をはじめとする機械学習技術を研究する組織を立ち上げた。PFNはこの組織が社内研修教材を作る際に支援したという。

 こうした長期的な協業の結果、これまで困難とされた機能を次々に実現した。最初に開発し、2015年12月にデモを公開した「バラ積みピッキング」は、トレーの中に乱雑に積まれた部品をピッキングロボットが高速に拾い上げることができる技術だ。これまでは同様の機能を実現するには、熟練者によるチューニングが不可欠だった。部品が積まれた画像を深層学習で解析することで、チューニングなしにバラ積みピッキングをできるようにした。

 続いて2017年10月には、射出成型機の部品の摩耗状態を深層学習で予測する予防保全技術「AIバックフローモニタ」、2018年4月にはサーボモーター制御のパラメータ設定に機械学習を適用し、モーターの機械振動を抑制する「AIフィードフォワード」、2018年11月にはAIが工作機械の主軸の故障を監視する「AI主軸モニター」を公開した。

 数カ月の短期PoCを受託する一般的なAI関連ビジネスで、こうした成果を得るのは難しい。開発するタスクは「3カ月で成果が出せる低難度のもの」「学習データが既にそろっているもの」に限定される。AI技術者が顧客の専門分野を学ぶ時間や、顧客企業にAI技術を学習してもらう時間も十分に取れない。

 企業とAIスタートアップとの取引関係としては短期のPoCを手掛ける受託型の他、互いに資金を出し合って製品やサービスを開発する共同開発型がある。だが共同開発型の場合、製品やサービスを開発するまでスタートアップは収入を得られない。そのため、短期に実用化できる研究開発テーマを選びがちになり、数年の研究開発を要する挑戦的なテーマを手掛けるのは難しい。

 これに対し、PFNが大企業と長期パートナーシップを結ぶ場合、大企業は開発費をPFNに提供する。PFNは安定して共同研究の体制を維持でき、より挑戦的な開発テーマを選べる。

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