崩壊の顛末(てんまつ)

 多くの複雑な工程を経て製品を組み上げている工場がある。これをP工場と呼ぼう。P工場では、多くの作業者が作業に従事しており、常に生産性の向上が現場の課題に上がっていた。

 P工場は多忙を極める現場だったが、現場リーダーの発案で、作業者から積極的に改善提案を集めようという動きが始まった。工場長や製造課長(以下、上司)は、その都度、現場から上がってきた多くの改善提案を精査し、適切であると考えた取り組みについては実施し、あまり効果が見込めない改善提案については採用を見送った。

 一見すると、良さそうな取り組みに見える。だが、現場からは次第に強い不満が聞こえるようになってきた。

(作成:日経 xTECH)
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 現場の不満とは、せっかく考えた改善提案が、ことごとく上司から否定されたり修正を求められたりすることだった。多忙な中で改善提案を考えたにもかかわらず、評価されることなく、改善提案に対する不備ばかりが指摘されるのは面白くない。作業者は改善提案を良くするための上司からのフィードバックを嫌っているわけではない。そうではなく、改善提案に対して上司からネガティブな評価をされることに強い抵抗を感じていたのだ。

 例えば、現場で何か良い方法を思いついたとする。すぐに上司に「こうしたらどうですか」と提案する。「じゃあ、それをやってみよう」と上司が前向きに反応してくれたらよいのだが、P工場の上司たちは「まず改善提案書を書きなさい」という反応になる。もちろん改善提案書の意義は作業者も分かっている。そこで、忙しい合間を縫って何とか簡単な改善提案書を作って上司に提出した。

 ところが、上司は内容の不備など細かい部分を指摘して「これではダメだ」と突き返す。こうなると、作業者も途中でやめるわけにはいかず、上司が納得する内容に仕上げるために、さらに忙しい思いをして改善提案書を作成することになる。揚げ句に、「改善効果が小さい」といった理由で採用を却下されてしまうのだ。

 こうして、作業者は猛烈な徒労感に襲われてしまった。結果、O工場では現場の作業者から改善提案が出なくなり、生産改善活動が停止。生産性が高まらず横ばいを維持するようになっただけではなく、仕事に対する作業者の前向きな姿勢も失われてしまった。

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