崩壊の顛末

 1つのフロアーに複数の生産設備を配置して生産を行っている工場がある。これをI工場と呼ぼう。I工場では、別棟にある資材倉庫から原材料を工場内に搬入し、数工程を経て完成品を出荷ヤードに運ぶという生産プロセスになっていた。

 I工場は数年前に竣工して稼働を始めたばかり。新工場として出来上がった際に、その設備レイアウトなどを考えたのが製造課長のA氏だ。A氏は、実に緻密にレイアウト案を構築した。出入口の位置やユーティリティーなどの制約条件を勘案しながら、設備をどのように配置し、原材料の搬入から工程内でのものの動きをどのようにしたら最も効率的かを考え抜いたレイアウトを練り上げたのだ。

 そしてI工場が竣工するや、現場はA氏の考え通りに忠実に稼働した。工程を知り尽くしたA氏のレイアウトは作業性に優れ、原材料や仕掛けなどの物流動線もシンプルに構築されており、操業開始から高い生産性を実現することができた。

 ところが、ある時を境にI工場は崩壊の道をたどった。きっかけはA氏の異動だ。A氏の後任として製造課長になったB氏は、別の拠点で課長職にあった。B氏は、I工場に赴任した当初、かなり戸惑った。その理由は、工場の中に「白線」がほとんどなかったからだ。設備の配置も人やものの動線も、かなり綿密に練られたことは一目瞭然だったが、設備の位置からものの置き場、そして人やフォークリフトなどが動く通路に至るまで、現場には一切の表示がなかったのだ。確かに工場レイアウトの図面があり、そこには設備の位置から原材料や仕掛品の置き場まで記入されていた。現場の作業者に聞くと、「工場レイアウトの図面を参考にしつつ、詳しくは(前任課長の)A氏の指示に従っていた」とのことだった。

 B氏が赴任した直後、現場が大混乱する事態が発生した。まず、生産量の急増に耐えられなかった。現場にはものがあふれかえり、原材料や仕掛品を載せたパレットが至る所に置かれるようになった。ここに、品質トラブルが追い打ちを掛けた。品質トラブルによって工程の後戻りなどが発生し、進捗の異なる仕掛品が同じ個所に置かれることが日常茶飯事になってしまったのだ。どこに何を置くのか、現場を維持するための「基準」となる線がないために、工程が無秩序になってしまい、生産性はあっという間に低下してしまった

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