崩壊の顛末

 たくさんの部品を緻(ち)密に組み合わせて高精度な機械装置を生産している工場がある。これをG工場と呼ぼう。G工場では、顧客の要望に合わせてさまざまな機能を持つ機械装置を生産している。設計の標準化を進めてはいるものの、現実には顧客の要望は多岐にわたるため、多くの部品がカスタム仕様となっていた。

 こうした工場では汎用部品を使う製品の生産とは異なり、工程で部品同士をいかに「擦り合わせるか」が重要となる。多くの場合、図面通りの部品が工程に支給されていても、現場で組み立てる際に「現物合せ」と呼ばれる微加工を施さなければ、目標とする精度の機械装置が完成しないことが頻繁に起こる。これは、製品の精度がベテラン作業者の“匠の技”による最終仕上げに依存しているということだ。

 G工場では、各職場に数人のベテラン作業者がおり、若手の育成をOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で実践していた。この種の工場によくある 「ノウハウは紙に書けない」「身体で覚えろ」というのがG工場の伝統的な教育姿勢だった。

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 OJTは座学とは違い、実際の生産活動の中で仕事を覚えていくため、効率的な教育手段だ。G工場でも簡単な作業手順書はあるものの、実際にはベテラン作業者が自身も作業しながら、若手作業者に対して作業のやり方を教え、一人前の作業者になるように教育を施していた。

 こうしてOJTを繰り返して生産を継続してきたG工場だが、ある品質トラブルが発生したことをきっかけに、工場長や経営幹部が「現場がおかしい」と危機感を抱くようになった。そのトラブルとは「適切な確認を実行していれば必ず分かる不具合に気付かず、そのまま製品を顧客に出荷してしまった」というものだ。

 現場の作業を調べてみると、驚くことに「適切な確認方法」を知らない作業者が何人もいるという実態が浮かび上がった。さらには、現場の若手作業者から「ベテランのAさんとBさんでは作業のやり方が違うし、作業上のポイントも全く違う」といった不満まで次々と出てきた。実は、同じベテラン作業者でもやり方に癖がある。若手作業者は、Aさんと仕事をするときにはAさんのやり方で、Bさんと仕事をするときにはBさんのやり方で作業するといったように、各ベテランに併せて対応していた。ところが、「適切な確認方法」を正しく実行していたベテラン作業者は、実は1人もいなかったのである。

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