デジタルトランスフォーメーション(DX)のような難しいプロジェクトは、人材を育成する格好の場。ただし、やり方を間違えるとエース級の人材さえ潰してしまう。そんなリスクの回避策とは。

 職場のエースとみなされる人材であっても、経験が通用しないプロジェクトに放り込まれると、途端に仕事がうまくいかなくなる。デジタルトランスフォーメーション(DX)のような前例のない事業変革に挑むプロジェクトはその筆頭だ。プロジェクトはリーダーシップを育む「良質な修羅場」になる。だが、修羅場はコントロールされたものでなければならない。初めての仕事に直面して苦労している人に突き放すような対応をすると、エース級人材ですら潰してしまうことになる。

 仕事がうまくいかないとはどのような状態なのか分かるだろうか。「1つの仕事をやり遂げるのに時間がかかる」「作ったものを上司に真っ赤に直される」といった状況を想像する人が多いと思うが、それだと少し甘い。仕事がうまくいかないというのは、努力が全くのごみになるということだ。「1日かけて作ったものが捨てられる」「任された仕事を、再び取り上げられる」といったように、貢献度ゼロの状態が続く。ゼロどころかマイナスだ。指導する上司や先輩の負荷を、指導されるメンバーの貢献が下回る。

 この状況はきつい。「社運をかけた変革プロジェクトに参加する!」というと一見華やかだが、自らの経験やスキルとプロジェクトのめぐり合わせ次第で、簡単にこうした状態へと陥る。自信を持っていたエースだって、朝起きても会社に行きたくなくなる。

 筆者らはプロジェクトをやるときに「Have Fun!(楽しくやろうぜ!)」を強調するが、これは「プロジェクトは、普通にやればしんどいし不安だしやたら大変」という認識の裏返しでもある。大変なのだから、せめて小さな成功を喜び、仲間と助け合い、楽しみを見つけながらやろうぜ!という意味でHave Fun!を大事にしているのだ。

「自分で調べろ」が通用するのはルーティンワークだけ

 つらい状況に追い込まれたメンバーは、普通であればプロジェクトの上司や先輩に相談に行く。このとき、けんもほろろに追い返す上司や先輩が少なくない。「自分で調べてから質問しに来てる?」「もっと自分で深く考えろ!」といった具合だ。だが、プロジェクトの仕事がうまくいっていない人に「もっと調べろ」「深く考えろ」という指導は、実は有害である。

 これはエース級人材でも同じだ。エースは1人で何とかなるだろうと上司や先輩は考えがちだが、慣れないことにトライするときは、エースも調べ方や考え方が分からない。

プロジェクトの仕事では「もっと調べろ」「深く考えろ」という指導は有害
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 調べろと言われても、何を調べたら正解に近づくのか分からない。考え方すら分からない状態の人に対し、「深く」考えろという指示も意味がない。こうした指示を受けても「うーん」とうなったり、眉間にしわを寄せたりと考えているふりの動作をするしかなくなる。だが、筆者が自分や他人を観察した限りでは、1つのテーマに1時間以上考える姿勢を見せている人は、思考をまとめられない状態に陥っている。

 なぜこんな指導がまかり通っているか。ルーティンワークではそれなりに有効だからだ。ルーティンワークは不確実性が低く、必勝法がある程度確立されている。前例を調べたり、先輩を手本にまねをしたりすれば、80点くらいの成果物はたいてい作れる。作れないとしたら、真面目にやっていない証拠だ。

 だが、プロジェクトの仕事はルーティンワークとは異なる。プロジェクトは多かれ少なかれ、過去にやったことがない新しい取り組みを含む。昨今はDXへのニーズが高まり、その度合いはますます増している。前例を調べたり、1人で考えたりしても、いきなり80点の成果物を作ることはまずできない。

 自分のワークスタイルや指導方法がルーティンワーク向きか、プロジェクトワーク向きかを意識している人はほとんどいない。ルーティンワークが得意なビジネスパーソンがプロジェクトを差配する立場になると、前述のような問題のある指導をしてしまいがちだ。これではプロジェクトが「コントロールされた良質な修羅場」にならない。プロジェクトに参加したメンバーが苦しい思いばかりをする。

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