デジタルトランスフォーメーション(DX)のような難しいプロジェクトは、人材を育成する格好の場。ただし、やり方を間違えるとエース級の人材さえ潰してしまう。そんなリスクの回避策とは。

 プロジェクトにおけるリーダーシップとは、リーダーの立場にある人だけが発揮すればよいものではない。1人のリーダーの命令に従って組織が動く仕事の進め方が効果的なのは、特定の商品を大量生産するような定型業務の場合だけだ。ビジネスを変革させるプロジェクトでは、メンバー1人ひとりが専門家として都度判断をしながら手探りで進める。仕事の内容に応じて全員がリーダーシップを発揮するのが最適な仕事の進め方だ。

 ところが、こうしたリーダーシップを育む方法論が多くの企業で欠けている。システム開発の現場でいまだに多いのは「炎上プロジェクトを経験すると一皮むけ、リーダーとして活躍するようになる」という考え方だ。炎上プロジェクトには、関わる人のやる気や前向きな気持ちを根こそぎ奪う暴力性がある。リーダーシップを育む以前に、メンバーが潰れてしまう恐れがある。今となっては間違った神話と言わざるを得ない。

炎上プロジェクトでリーダーが育つという思い込み
[画像のクリックで拡大表示]

 ただ、この考え方は、一面では真実を含むので厄介だ。実際、リーダーとして活躍している人に「あなたがリーダーとして一皮むけたなあ、と思う経験は何ですか?」と聞くと、かつて参加した炎上プロジェクトでの経験を挙げる人が多い。そうした人は「炎上を消火した先輩の姿を見て、これがリーダーシップだと強烈な手本になった」「厳しい状況に追い込まれ、それまでどこか人ごとだったプロジェクトで、やけくそのように踏み込んで仕事をした」と話す。

 炎上したプロジェクトの火を消すのは、プロジェクトに関わる最難関の仕事だ。最もリーダーシップが必要とされ、これこそが炎上プロジェクトで新たなリーダーが生まれる理由でもある。リーダー育成を考える上で、このテーマから逃げるわけにはいかない。

生き延びた人だけが炎上を語る

 「炎上プロジェクトでリーダーシップが鍛えられた」というせりふの中には、言葉にされていない事実がある。こう振り返る人は皆、ちゃんと“死地”から生還していることだ。炎上プロジェクトで生き残れなかった人は、「あの経験で鍛えられた」と前向きに振り返ることはないだろう。

 つまり、典型的な「生存バイアス」だ。生き残った人は良い思い出として語るが、実は炎上プロジェクトで潰れてしまった人も多くいる。その人たちは発言しないため、炎上プロジェクトの経験が実態以上に良いものとして語られてしまっている。ビジネスのためにも、メンバー個人の幸せのためにも、炎上はしない方がよいに決まっている。

 リーダーの育成に必要なのは「修羅場」だ。それは炎上プロジェクトである必要はない。通常のプロジェクトの中で、「コントロールされた良質な修羅場」を作ればいいのだ。コントロールされていない炎上プロジェクトでは、一部のメンバーはリーダーシップを身に付けるかもしれないが、他の多くのメンバーが脱落してしまいかねない。また、修羅場と言えないような生ぬるい現場だけを経験していても、優秀なリーダーは育たない。どちらにせよ、リーダーになるべきエースを潰してしまう可能性がある。

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら