平成の30年間、日本は幾つもの巨大災害に見舞われた。その教訓は生かされているのか。積み残された課題は何か。ポスト平成が始まろうとしている今、災害に克つ技術に迫る。

 地震による揺れだけでは、通信インフラへのダメージは比較的小さい。NTTドコモの災害対策室室長の小林和則には、経験から学んだ直感があった。地震に付随する津波や停電こそが、通信にとっては大ダメージになる――。

 2018年9月6日の早朝、小林の携帯がけたたましく鳴り、北海道地方で地震が発生したことを知った。小林が災害対策室長になったのは約1年前。それ以降小林は、NTTドコモ本社の徒歩圏内に家族と離れて住まいを構える。その日も一報を受けてすぐに本社に駆け付ける準備を開始した。

 このとき小林は、準備をしながら自宅のパソコンでチェックしていた社内システムの画面に違和感を覚えたという。「画面に映った北海道の全基地局が真っ青になっていた」。

 小林が見たのは、全国の基地局を常時監視し、ビジュアルで閲覧できるシステム。基地局で異常を検出した場合に基地局のアイコンが表示される仕組みだ。正常に稼働していれば、何も表示されない。異常の内容によってアイコンの色が変わる仕組みで、青は停電を意味する。災害時には特に、被害状況を把握するため頻繁に確認する。

 このとき北海道は、北海道電力から基地局への電力供給が途絶えたことがエラーと認識され、バッテリーを備えている基地局も含め、すべて即時エラーとなって表示された。その数最大2200局。小林が見たときには、基地局の異常を表す無数の青い点が北海道全域を覆っていたのだ。

 見たこともない状況に、小林は当初、システムエラーを疑った。「監視システムが何かしらの原因で故障したのか」。それが故障ではなく、恐れていた「地震に伴う広域停電」であることに気づいたのは、小林が本社に到着した後だった。

北海道胆振東部地震の災害対策室で対応に追われるメンバー
(画像:NTTドコモ提供、以下同)
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 発災後1時間もたたない午前4時前には本社ビル35階にある災害対策室に入り、自らエアコンをつけ、モニターをつけ、パソコンの電源をつけた。

 嫌な予感はあった。会社に移動する前に北海道支社の災害対策室長の渡辺利男と電話で話したときのことだ。渡辺もちょうど札幌市中心部にある支社に到着したところだった。渡辺は「支社のエレベーターが止まっている」と小林に伝えながら、4階に設けられた災害対策室に向かって階段を駆け上っていた。小林は取りあえず現地と電話がつながったことにほっとした一方、息を切らせながら電話対応をする渡辺の声が心に刺さった。地震でエレベーターが止まったのか、停電なのか、停電であればたまたま支社で起きているだけなのか――。「何もなければいいが」と不安とも祈りともつかぬ気持ちが去来した。

 嫌な予感は当たった。北海道が「真っ青」になっていた原因は、システムのエラーではなかった。札幌との連絡や報道によって、全道ブラックアウトという史上初の状況に直面していたことを知った。

 不運にも、その2日前の9月4日に日本に上陸した台風21号で、岐阜から紀伊半島にかけて大規模停電が発生し、関西国際空港が高潮の影響で冠水するなど西日本でも混乱状態になっていた。「既に前日からネットワーク本部長の田村(穂積取締役常務執行役員)を中心に、緊張感が高まっていた。そこに全道停電という北海道の震災が起き、手数が足りない状況になった」と小林は当時の混乱ぶりを語る。ドコモは、台風21号と北海道胆振東部地震を同時発災と位置付け「複合災害」と認定。以後、約2500人態勢で復旧を実施することになる。

 午前4時15分、利用者に対して第一報を出した。第一報といっても「現状を確認している」という内容。ドコモではこれを「0.0報」と位置付ける。その後午前8時30分には「0.5報」を打ち、通信がつながりにくい状況が発生していることを周知した。

 その間にも本社には続々と対策チームが集まってきていた。午前7時には60平方メートルの広さの災害対策室に関係者数十人が所狭しと詰めかけた。小林以下災害対策メンバー、取締役常務執行役員の田村、広報などが集まった。

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