空を飛ぶ心電計、ルフトハンザ航空の決断

2019/07/16 05:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 航空機に医療機器が搭載され「空を飛ぶ」ようになったのは、1998年に遡る。日本航空がAED(自動体外式除細動器)の搭載テストを開始した。これが後に、公共機関や交通機関、企業、ショッピングセンターといった人の集まる場所にAEDが導入されるきっかけを作ったと言っていいだろう(関連記事)。

図●主な医療機器・設備などの航空機への搭載の歴史
(筆者が作成)
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 以前はAEDの使用について、医療従事者以外には認められていなかった。しかし2001年12月に「客室乗務員が緊急避難的にAEDを使用することはやむを得ない」という厚生労働省の見解により、条件付きで乗務員の使用が認められるようになった。医療機器が初めて医療機関以外に開放された瞬間である。その後2004年7月には、人命に影響を及ぼす緊急事態への対応のため、一般人による除細動が認められるようになった。

 日本航空では、2007年11月に国際線の機内で心肺停止となった患者に対してAED が使用され、救命された事例がある。このような経緯をたどり、航空会社は救命措置ができるように多くの医療機器や救急設備を備えるようになってきた。

航空機での心電図測定が意味するもの

 AEDから始まった搭載機種は、徐々に増加している状況にある。医療機器そのものは日本の航空会社がそのきっかけを作ったが、設備においてはルフトハンザドイツ航空の「患者搬送コンパートメント」の導入が初の試みとして注目される(関連記事)。

 最近では、同じくルフトハンザドイツ航空での心電計と心電図伝送装置の設置が話題となっている。これまで、パルスオキシメーターや血圧計の搭載は知られているが、心電図関連機器の搭載は初めてとなる。

 AEDにも心電図測定機能が備わっているが、心停止や心室細動などの重篤の事態を確かめるための副次的な機能だ。現実的な心機能疾患は日常的に起こるため、必ずしもAEDの対象になるものだけではない。心機能をチェックするには「心電図測定」が有効であることは周知の事実である。

 今回のルフトハンザドイツ航空のこれらの機器の導入は、その意味において重要な決断だと評価できる。機内だけでのチェックが万全ではないため、地上施設での遠隔診断も可能な心電図伝送装置を具備していることに意義がある。航空機内を孤立の状態から設備の整う医療機関と連携させられるようになったからだ。

 米アップル(Apple)のスマートウオッチ「Apple Watch Series 4」の心電図測定機能は、日常生活での健康意識を高める効果があった。国際線の機内という密室での「心電図チェック」は、この進展過程を議論するのに十分なトピックスと考えられる。心電図チェックが、医療現場だけのものでなく、日常生活の場や乗り物の中にも浸透していく過渡期とも感じられる。

航空機搭乗は2000m級の登山に匹敵

 医療機器が航空機に搭載されて「空を飛ぶ」ようになり、その種類も豊富になりつつある。その理由は、健康に影響を与える可能性があるためだ。航空機への搭乗では、2000m級の登山に匹敵する気圧変化が発生する。

 通常、航空機の巡航高度は上空約10000mであり、外気圧は約0.26気圧(地上の1/4程度)である。この気圧の変化から人体を守るために、航空機内部は約0.8気圧に保たれている。0.8気圧は約2000mの山に登るのに等しい。離陸時は15分程度で、一気に1気圧から0.8気圧の環境変化にさらされる。

 乗客の健康状態が良好であれば問題はない。しかし、心疾患などが潜んでいたりする「潜在的に疾患を抱えている患者」にとっては、その気圧変化に耐えられない事態に遭遇することになる。日常的に航空機内で体験する手足のむくみや、鼓膜の内側と外側の圧力差による航空性中耳炎を引き起こした経験がある人も多いだろう。

 特に、長時間の国際線フライトのケースでは、「エコノミークラス症候群」などの危険性が高まる。こうした上空での深刻な発作や病気の発症に対応するため、小型化された医療機器や医薬品類が常備されるようになってきた。

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