日経アーキテクチュアの編集部が選ぶ「10大建築人2019」で1位となり、「アーキテクト・オブ・ザ・イヤー2019」に輝いたのはフランス・パリに拠点を置く田根剛氏。現在、東京都内の2会場で、大掛かりな個展を開催中だ。フランスや日本をはじめ、進行中のプロジェクトは20を超える。2つの個展が開幕した後の11月初旬、会場の1つであるTOTOギャラリー・間で田根氏に話を聞いた。

2018年10月から、「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future」と題して、東京オペラシティ アートギャラリーとTOTOギャラリー・間の2会場で、展覧会を同時開催しています。手応えはいかがですか。

 10月17日にギャラリー・間、18日に東京オペラシティと、2会場で連日、オープニングセレモニーがありました。それを終えた翌朝、あまり寝られなかったにもかかわらず、意外なことにすごくスッキリとしていました。

 これまで自分が感じてきたこと、いろいろな葛藤や挑戦も含め、すべて出し切ったから、「次のことに向かわなくては」「早くパリに帰って仕事をしよう」というモードに、既に切り替わっていました。

TOTOギャラリー・間の展示会場に立つ田根剛氏(Atelier Tsuyoshi Tane Architects/アトリエ・ツヨシ・タネ・アーキテクツ代表)。同会場での展示は18年12月23日まで(写真:稲垣 純也)
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展覧会は田根さんにとって、1つの転換点になった?

 展覧会の準備期間中、「記憶」という大きなメッセージ、そしてなぜ自分が記憶に可能性を感じているのかについてずっと考えていました。

 振り返ってみると、最も大きな転換点は「エストニア国立博物館」が2016年に完成したことでした。エストニアにとっては負の遺産だった旧ソ連の軍用滑走路の受難の記憶を未来につなぐ建築ですが、新しくできたこの博物館が文化拠点となり、市民の新しい活動が始まっています。館長も「この場所ができたことで、ソ連占領下の時代を乗り越えることができた」と言ってくれて、エストニアの新しい未来が始まったと感じました。

「エストニア国立博物館」(2016年)。オープニングセレモニーが行われた16年9月29日の正面エントランスの風景(写真:武藤 聖一)
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エストニア国立博物館の側面。池の上を幅71mの建物が42mスパンで橋のように横切る(写真:武藤 聖一)
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 それまでは、場所の記憶を掘り下げることで建築になるのではないかと思っていたのですが、「エストニア」では、「建築は記憶と未来をひとつにするものではないか」「記憶は過去に属するだけではなく、未来をつくる原動力になるのではないか」と強く実感することができました。ただ、建築の本質は場所とのつながりにあるという考えは変わりません。

 そうしたメッセージを込めて、今回の展示構成をやり切ったので、あとはどのように受け取ってもらえるか。アイデアを育ててもらえるか、あるいは批判されるかは、見る方々に自由に発想してもらいたいですね(笑)。

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