建物の環境性能評価の指標として、次第に認知されてきた米国のLEED(リード)や日本のCASBEE(キャスビー)。環境を軸とした評価システムは、建物のデベロッパーやテナントが企業の社会的責任(CSR)の観点から実施する色合いが濃かった。米国や中国では近年、建物利用者の心身の健康に焦点を当てた「WELL Building Standard」(以下、WELL認証)に登録する建物が急増している。優秀な人材を募るため。また、投資家の要請に応えるため。建築には「環境」に加えて「健康」の視点が必要になっている。

WELL認証システムを開発した米デロス社のニューヨーク本社。ルームランナーで歩きながら仕事ができるようにするなど、オフィスで健康に過ごすための仕組みづくりを重視している(写真:ImagenSubliminal, courtesy of Delos)
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 ルームランナーでてくてくと歩きながら会議の資料をまとめる男性。太陽光が差し込む明るいオフィスでは、思い思いの場所に座って従業員が働いている。なかには机の高さを調節して、立った姿勢でパソコンに向かう人の姿もある。植栽で緑に彩られた食堂では、健康に配慮した食材を提供する。糖分の多いソーダなどは置かないルールだ。当然、タバコはご法度。日が落ちても生体リズムに配慮したオフィス照明が、心身を疲弊させないような空間を維持してくれる。

WELL認証では「光」が健康にとって重要な要素だ。壁面はガラスファサードで開口部が広いつくりとなっている。窓から外が見えることで仕事の集中率が15%アップするという効果が期待できるという(写真:ImagenSubliminal, courtesy of Delos)
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「食物」への配慮もWELL認定に欠かせない。社内では糖質含有量の多い食品を提供できない決まりだ(写真:ImagenSubliminal, courtesy of Delos)
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 これは米ニューヨーク市マンハッタンにあるデロス本社のオフィスだ。同社の創業者、ポール・シャッラ氏は、建物内で過ごす人々の心身の健康に良い空間を認証するシステムの創設を提唱して、WELL認証のコンセプトを開発。2013年には試験運用版を利用して米ロサンゼルスで初めてWELL認証を取得した建物が生まれた。同認証が本格始動したのは14年から。現在では世界30カ国超で1000件以上、約1800万m2以上の不動産がWELL認証の取得や登録をしている。

2018年11月時点の世界のWELL認証登録件数。アジアでは環境汚染に悩む中国の登録が圧倒的に多い。日本では17年11月に大林組の技術研究所本館テクノステーションが初めてWELL認証を取得した(資料:大林組設計本部設計ソリューション部の今井康博技術情報企画課長が作成)
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 日本ではまだ聞き慣れないWELL認証。実際に日本でWELL認証を取得した物件は、17年11月の大林組技術研究所(東京都清瀬市)本館テクノステーションのみだ。最近では、18年10月から稼働したイトーキ(東京都中央区)の本社が認証取得に向けた「予備認証」を取得し、19年に本社を移転する東急不動産などが認証取得に向けた準備を進めるなど、徐々に関心が高まりつつある。しかし、世界の全登録の3分の1を占めるアジア地域をみると、中国が突出している。

 なぜ、中国で関心が高いのか。デロス社のフィル・ウイリアムス・エグゼクティブ・バイスプレジデントは、「中国では外気の汚れがひどい。屋内で健康に過ごせるという評価は、その空間を職場とする企業にとって、優秀な人材を引き寄せる強みとなっている」と説明する。WELL認証はコンセプト作成に7年かけており、医師や科学者の知見を盛り込んでいる。空気や水、光の環境が良いオフィスでの労働は、仕事の効率を高めるという実証結果がある。

 また、近年は環境(Enviromnent)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮したESG投資が世界的な潮流だ。年金基金や保険会社は投資マネーの運用先として、従業員の健康に配慮した企業に資金を振り分ける傾向が高まっている。日本もその流れは無視できない。いち早くWELL認証の取得に取り組んだ大林組設計本部設計ソリューション部の今井康博技術情報企画課長は、「建築の高い健康性能は、やがて不動産価値の向上をもたらす」と説明する。

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