世界で「接合革命」が起きている。軽量化や材料の多様化により、これまでの溶接から接着剤への置き換えや併用が進んでいるのだ。このニーズを捉えた日本の接着剤メーカーが、自動車の車体向けに従来の特性を超える構造用接着剤を開発し始めた。ナガセケムテックス(本社大阪市)は、異種材料接合〔鋼-アルミニウム(Al)合金〕向け熱応力緩和エポキシ系接着剤を開発した。接着剤で接合した試験片を強度試験で引っ張ると、Alが切れる(母材破壊する)ほど高い強度を備えた高靱(じん)性熱硬化性エポキシ接着剤だ。

ナガセケムテックス電気・構造材料部CSチームの野村和宏氏
(写真:寺尾 豊)

 異種材料を接着する際に問題となるのは、被着体の熱膨張率(線膨張係数)や弾性率の違いによって発生する熱応力だ。熱応力が発生すると、基材の変形や接着強度の低下を引き起こす。この低減のために接着剤層の弾性率を低下させたり、厚くしたりするが、どうしても接着強度が低下する傾向がある。

 そこで、ナガセケムテックスは熱可塑性樹脂の高い応力緩和特性に着目し、熱可塑性樹脂と同じような特性を持つ熱硬化性エポキシ接着剤の開発を目指した。ナガセケムテックスは熱可塑性エポキシ樹脂という特徴的な製品を持っている。この技術を利用し、限りなく熱可塑性樹脂に近い特性を備えた高靱(じん)性の熱硬化性エポキシ接着剤、すなわち異種材料接合〔鋼ーアルミニウム(Al)合金〕向け熱応力緩和エポキシ系接着剤を開発した。

 ナガセケムテックスは、NEDO「革新的新構造材料等研究開発」プロジェクトのテーマの1つである「構造材料用接着技術の開発」に、新構造材料技術研究組合(ISMA)の再委託先として参加して、新しい接着剤の開発に取り組んでいる。

図1●エポキシ樹脂の重合過程
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 図1に、熱可塑性エポキシ樹脂と熱硬化性エポキシ樹脂のそれぞれのモノマーがポリマーに変化していく重合過程の模式図を示した。熱可塑性エポキシ樹脂も熱硬化性エポキシ樹脂も、共に低分子のモノマーからスタートして分子量が増大する。熱可塑性エポキシ樹脂は特殊な促進剤を使用することにより、架橋がほとんど起こらない線状のポリマーに成長する。これに対し、一般的な熱硬化性エポキシ樹脂は、最終的には高い架橋密度を有する3次元構造となる。このため、熱可塑性エポキシ樹脂は分子間の相対的な滑りが可能であり、応力緩和特性が高くなる。ただし、耐溶剤性が低くなるという問題がある。

 一方、熱硬化性エポキシ樹脂は、耐溶剤性は高いものの、応力緩和特性は低くなる。構造用接着剤として使用する場合は熱で溶融したり、溶剤で溶解したりしてしまう事態は避けなければならない。こうした現象が生じない程度に架橋密度を調整し、応力緩和性と耐溶剤性を両立させる必要がある。

 新しい接着剤はこうしたコンセプトで開発した。我々は、応力緩和性を高めるために応力緩和剤となり得る柔軟な原料と、応力緩和効果の高い組成を見いだした。

 自動車のボディーに適用する場合には、他の技術的課題もある。車体部品は防錆(ぼうせい)油などが付着した状態で接着剤を塗布する場合がほとんどだ。従って、接着に必須の脱脂や表面処理ができない。これに対し、新しい接着剤は接着強度があまり低下せず、生産現場で使いやすい。「油面接着性」と呼ぶ、防錆油を接着剤の内部に取り込む特性を持つからだ。このために必要な添加剤もスクリーニングの結果、良好なものを選択できた。

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