世界で「接合革命」が起きている。軽量化や材料の多様化により、溶接から接着剤への置き換えや併用が進んでいるのだ。米ゼネラル・モーターズは、アルミニウム合金を大胆に使った自動車のボディーの接合に、溶接に加えて接着剤を積極的に採用。驚くのは、構造に要する強度をほぼ接着で満たしていることだ。これに対し、日本の構造技術は今、どの水準にあるのか。産業技術総合研究所(産総研)接着・界面現象研究ラボ研究ラボ長であり、東京工業大学科学技術創成研究院准教授の佐藤千明氏を直撃した。

東京工業大学科学技術創成研究院准教授の佐藤千明氏
(写真:寺尾 豊)

高張力鋼板と溶接に依存し過ぎると自動車のボディーの軽量化が止まるリスクがあると伺いました。とはいえ炭素繊維強化樹脂(CFRP)は、軽量化効果は大きいものの、コストが高いため、日本の自動車メーカーは採用に二の足を踏んでいます。

佐藤氏:確かに、CFRPを使ったクルマが普及するにはもう少し時間がかかるかもしれません。しかし、実は「アルミ化」、すなわちアルミニウム(Al)合金を使ったボディーの軽量化が進む中で、構造材の接合に使う構造用接着剤(以下、接着剤)の普及に追い風が吹いています。

 というのは、鋼と比べてAl合金は溶接しにくいため、Al化ボディーでは、これまでリベットと接着剤を併せて(併用継ぎ手によって)強度を確保してきました。ところが、リベットはコストが高いし重い。そこで、設計としてはできる限りリベットを減らし、接着剤が負担する強度の割合を増やしたい。こうした背景から次第に接着剤への期待が大きく膨らんでいるのです。

 既にその方向に技術は進んでいます。最も端的な例は、米ゼネラル・モーターズ(General Motors、以下GM)の高級セダン「キャデラックCT6」です。外板だけではなく、ボディー骨格にAl合金を大胆に使いました。ボディー骨格における鋼板とAl合金の比率は、ざっと4対6と言われています。このAlボディーの接合で、GMは溶接と接着剤の強度負担の主従を逆転させました。すなわち、接合強度において接着剤を「主」に、溶接を「従」にしたのです。

Alボディーといえば、溶接中心で造るものだと思っていました。キャデラックCT6のボディーの接合法について、もう少し詳しく教えてください。

佐藤氏:キャデラックCT6のAlボディーは、抵抗スポット溶接「マルチリングスポット溶接」と接着剤が併用されています。マルチリングスポット溶接は比較的最近実用化された接合法で、銅電極に半円球状の「マルチリングドーム」形電極を使うことが特徴です。この形状の電極がAl表面の酸化皮膜を壊し、溶接強度を高めると言われています。ところが、鋼同士の抵抗スポット溶接ほどの高い溶接強度は得られません。そのため、併用する接着剤の接合強度の割合を増やしているというのです。

キャデラックCT6
軽量化のためAlボディーを採用した。(出所:GM)
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 海外のある学会で出会ったGMの技術者から話を聞いたところ、彼はこう語っていました。構造部材を仮留めする必要もあって抵抗スポット溶接は減らせない。しかし、ボディー構造としての強度は、ほぼ接着剤で満たしている。ボディーでこれ以上の軽量化を進めるには、接着剤を増やすしかないと。

 ボディーの接合技術の詳細は外観からだけでは分かりません。分解するか、あるいは造っている人に直接確認するしか方法はないと思います。しかし、競合する企業の技術者には明かさないのではないでしょうか。もしかすると、私が同業者だったらGMの技術者もこうした情報は教えてくれなかったかもしれません。

 それはともかく、GMはクルマづくりにおいて、接着剤をキーテクノロジーと捉えているのです。米国の自動車の生産技術は後れていると言う人もいますが、米国はやるときはやる、底力があるのです。

 接着剤による接合の割合を増やしたいのは、航空機も同じです。航空機では1機当たり10万本のリベットを使うと言われています。こうした締結要素を半減するだけで、相当な軽量化効果を得られます。実際、欧州ではボルトレスのプロジェクトが進んでいます。世界の航空機業界でも、接着剤はキーテクノロジーと見られているのです。

キャデラックCT6のボディー構造
ボディー骨格は62%のAl合金と38%の鋼で構成されている。接合には、抵抗スポット溶接と接着剤を併用するが、強度はほぼ接着剤で満たしているという。(ボディーの図の出所:GM)
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