100年、いや130年に1度の変革期を迎えたと言われる自動車業界。パリ協定(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議;COP21)の二酸化炭素(CO2)削減目標は実現可能なのか。技術的な根拠を踏まえると、電気自動車(EV)を主力とするセールスミックスは難しい。では、どうすればよいのか。パリ協定の目標を実現し得る、将来のエンジン車と次世代車両の比率(ロードマップ)を、自動車を知り尽くす元トヨタ自動車の技術者で愛知工業大学工学部客員教授の藤村俊夫氏が語る。その前編。(近岡 裕=日経 xTECH)

藤村俊夫氏
愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)、 元トヨタ自動車、PwC Japan自動車セクター顧問をはじめ数社の顧問を兼任

 本連載の第6章として取り上げるテーマは、将来のエンジン車と次世代車両比率(ロードマップ)だ。今回強調したいのは、以下の通りである。

  • これからの新車販売台数の増加分は、先進国への電動車の導入拡大で対応していく
  • エンジン車は熱効率の改善と石油燃料からカーボンフリー燃料への転換が鍵となる
  • 車両の画期的な軽量化が車両制御性とエネルギーセーブ、二酸化炭素(CO2)削減のために必須となる

 初めに、パリ協定(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議;COP21)で提示されたCO2自主目標の達成の可能性について概要を述べる。この可能性を考える上で、次に示す自動車からの総CO2排出量の予測に対し、各種のCO2低減策の技術的根拠を明確にした。その上で、エンジン車の導入の大幅な縮小なしに、2050年のCO2排出量の目標である17億tの達成が可能であることを解説していく。

将来の新車販売台数・保有台数・CO2排出量の予測(第4章参照)

  • 世界の新車販売台数は2015年の9000万台から2040年の1億3000万台まで増加し、その後飽和する
  • 保有台数は2015年12.6億台から2040年に20.1億台まで増加し、その後飽和する
  • クルマからのCO2排出量は、今後改善を進めない場合は2015年の60億tから2040年に95.7億tまで増加する

CO2低減の技術的根拠(第1、2章参照)

  • 今後の新車販売台数の増加分は、主に先進国において電動車の導入の拡大で対応する。電動車とは、ハイブリッド車(HEV)、プラグインHEV(PHEV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)である
  • 電動車は技術の完成度(航続距離、質量、コスト)と、CO2の低減率、インフラ整備の状況などを総合的に鑑みて、①HEV、②PHEV、③EV、④FCV、の優先順位で導入してCO2の低減を図る(第1章で説明)
  • 車両の軽量化は高張力鋼板からホットプレス材(ホットスタンプ材)、金属から複合樹脂/複合セラミックスなどへの材料置換の可能性(強度/コストの成立性)を考慮し、2015年比で、2030年に20%減、2040年に27%減を達成して、2040年にCO220%の削減を図る
  • エンジン車に関しては、2030年までに、熱効率を10ポイント改善+マイルドハイブリッドシステムの100%採用により、30%の燃費改善を図る
  • エンジン車の燃料は、2040年までに48%をバイオ燃料(カーボンニュートラル)、17%を水素燃料(カーボンフリー)に転換する

2040年にエンジン車50%、電動車50%

 図1は、世界の新車販売台数が1.3億台のケース(上振れケース)でのセールスミックスの予測だ。世界の新車販売台数は2040年に飽和し、2040年時点で50%(6500万台)がエンジン車となる。燃料は24%をバイオ燃料、8.5%を水素、4%を液化天然ガス(LNG)に転換し、残りの13.5%が従来のガソリンと軽油となる。

 一方で50%の電動車(6500万台)の内訳は、HEVが20.5%、PHEVが15%、EVが9.5%、FCVが5%である。なお、ここで示すEVの大半は後述する低速電気自動車(Low Speed EV;LSEV)であることを記しておく。

 HEVとPHEVに搭載されるエンジンを含めると、エンジン市場は1.1億台となり、現在よりもエンジン市場は拡大する。図中に示す新興国の販売比率に照らし合わせると、2030年には先進国での新車販売台数と同程度が次世代車となる一方で、エンジン車については2040年時点でも新興国の新車販売台数の77%相当を占めることになる。

 これは、2030年以降のドイツやフランス、英国をはじめとする欧州のエンジン車廃止政策や、2030年以降に新車販売台数の50%近くを電動車にするという自動車メーカーの表明(第1章を参照)を裏付ける形となっている。なお、2050年以降のエンジン車とHEV、PHEVの燃料は100%バイオと水素に転換される。

図1 CO2削減目標に向けたセールスミックスと燃料多様化対応の予測
2040年に世界の新車販売台数が1.3億台になるケースの予測。200Vモーターとパワーコントロールシステム(PCS)の需要が6500万台まで増加する。エンジンの需要は1億1000万台。2030~40年のフランスとドイツ、英国におけるエンジン車の販売はゼロとした。販売台数が飽和すると予想される2035年以降、先進国では100%が次世代車になる一方で、新興国では2040年の時点でも約90%がエンジン車として残る予測となる。世界販売におけるEV比率は10%程度である。2040年においてHEVとPHEVを含めると、エンジン搭載車は1億台ほどとなる。(作成:藤村氏)
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