100年、いや130年に1度の変革期を迎えたと言われる自動車業界。世間では電気自動車(EV)を含めたパワートレーンの電動化ばかりが話題になるが、リーズナブルな価格設定を実現できるエンジンの潜在的な需要は今後も極めて高い。ハイブリッド車(HEV)やプラグインHEV(PHEV)でも必要な動力源であることから、エンジンの高効率化に向けた開発は電動化に負けず劣らず重要だ。熱効率55%にまで高めるエンジン開発の道筋について、自動車を知り尽くす元トヨタ自動車の技術者で愛知工業大学工学部客員教授の藤村俊夫氏が語る。(近岡 裕=日経 xTECH)

藤村俊夫氏
愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)、 元トヨタ自動車、PwC Japan自動車セクター顧問をはじめ数社の顧問を兼任

 本連載の第5章として取り上げるテーマは、自動車の先進技術の俯瞰(ふかん)と内燃機関(エンジン)の改良技術だ。今回強調したいのは、以下の通りである。

  • 車両の開発は全方位で進め、「適時・適車」で市場投入する
  • エンジン車の燃費効率の20%向上とカーボンフリー燃料への早期転換(2030年まで)の実現
  • エンジン車への48Vマイルドハイブリッドシステムの全面展開(2030年まで)
  • 熱マネジメントが今後の自動車の鍵を握る

 車両改良技術の全体を俯瞰したものが図1だ。技術開発は全方位で進め、お客様のニーズや環境性能を両立する完成度の高い技術から市場に導入していくことが重要となる。なお、その導入の優先順位は既に第1章で示した通りだ。

 「良いクルマ」の定義は、「乗って楽しく、便利で、安心。適正価格で購入でき、簡単に壊れない上に、環境に優しい」というクルマである。こうしたクルマを実現するためには、素材を含めた[1]パワートレーン、[2]エネルギーソース、[3]ボディー/シャシーの大幅な改良が必要となる。

 [1]のパワートレーンについては、エンジン車はエンジン・駆動系の効率改善が、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)はモーターとパワーデバイスの効率の改善が鍵となる。ハイブリッド車(HEV)とプラグインHEV(PHEV)はこれらをインテグレート(統合)し、システムにおける効率の最大化を狙うことになる。

 [2]のエネルギーソースに関しては、EVはバッテリーのエネルギー密度、出力密度と寿命の向上が、FCVはスタックの出力密度の向上がポイントとなる。[3]のボディー/シャシーでは、従来と比較した大幅な軽量化と、空気抵抗・転がり抵抗の低減が鍵を握る。

 ここでEVとFCVは車両重量(質量)が重いため、エンジン車やHEVなどとのプラットフォームの共通化は容易ではなく、専用設計が必要だ。つまり、自動車開発全体で見た場合に、車両開発効率や原価低減を阻害する要因となる。従って、EVやFCVをどの車両カテゴリーで生かすべきかをよく考えることが大切だ。この点を踏まえると、EVについては低速電気自動車(Low Speed EV;LSEV)への適用が現実的だろう。都市内で短距離を走行するシェアカーや宅配車としての用途だ。一方、FCVは長距離輸送のバスやトラック、および一部のラグジュアリー乗用車(ショーファーカー)としての実用化が現実的だ。

 今後の世界的な販売台数の増加に伴って電動車の比率は増やしていくことになる。だが購買力を踏まえると、特に新興国では価格面を考慮しながらエンジン車を自動車の主力として存続させることを考えなくてはならない(詳細は後述)。エンジンの効率化に関しては、まだまだ改良の余地が残されている。従って、燃料の多様化〔脱石油化:天然ガスやバイオ、水素、PTL(水素と二酸化炭素から合成した液体炭化水素)など〕とセットで、これから電動車の「現実解」として拡大するHEVやPHEVに搭載するものも含めて、エンジンの開発を力強く推進する必要がある。以下、エンジンの改良技術にフォーカスして解説していく。

図1 車両改良技術の全体俯瞰
技術開発は全方位で進め、お客様のニーズと環境性能を両立させる完成度の高い技術から市場に導入することが重要。(作成:藤村氏)
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