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ブロックチェーンのポテンシャルとインパクト

 ブロックチェーンは、それまで価値を交換する際に必要と思われていた組織や機能を不要にする可能性がある。以下では『ブロックチェーンレボリューション』から、ブロックチェーンが持つポテンシャルとして列挙されているものを引用する。

  • 本物のシェアリングエコノミーがやってくる
  • 金融業界に競争とイノベーションが生まれる
  • 財産権が確実にデータ化される
  • 送金が安く、早く、簡単になる
  • 支援金が必要な人に確実に届く
  • クリエイターが作品の対価を受け取れる
  • 会社の形態が進化する
  • モノが自分で動くようになる
  • 小さな企業がどんどん生まれる
  • 政治が人びとのものになる

 どれも、それまで必要だと思われていた組織や機能を、ブロックチェーンが置き換える可能性を示している。

 必要なくなる組織について言えば、筆者は金融領域(FinTech)が専門なので、特に金融に関して述べたい。2017年8月、国際的な金融機関を監督し国際協調を進めるバーゼル銀行監督委員会が出したレポートがある。近年のイノベーションが銀行ビジネスに与える影響を分析し、来るべき未来シナリオを提示した「Sound Practices: Implications of fintech developments for banks and bank supervisors」だ。このレポートの中で、最も破壊的なシナリオとしてブロックチェーンなどによってP2P(ピア・ツー・ピア)ネットワークが普及した場合、既存の金融仲介機能そのものが不要になるというシナリオが示された。

 このシナリオには「Disintermediated Bank(中抜きされる銀行)」というタイトルが付けられている。この「中抜き(disintermediated)」という言葉は、実は1990年代後半にインターネットの普及によってもたらされるインパクトでもよく使われた。ブロックチェーンはインターネットと同様、産業構造を変化させ得るポテンシャルを持っている。

バーゼル委員会が想定する、銀行の将来シナリオ
(出所:バーゼル銀行監督委員会)
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 また、機能という視点からブロックチェーンのポテンシャルを言い表しているのが、イーサリアムの考案者であるヴィタリック・ブテリン氏の言葉である。

 「たいていの技術は末端の仕事を自動化しようとしますが、ブロックチェーンは中央の仕事を自動化します。タクシー運転手の仕事を奪うのではなく、Uberをなくして運転手が直接仕事をとれるようにするんです」(『ブロックチェーンレボリューション』より)

 ブロックチェーンは中央でリソース配分を決定し、価値を分配する機能を不要にする可能性がある。これは今までの会社組織のあり方を根本的に破壊し、置き換える可能性を示唆している。

ブロックチェーンの課題

 大きなポテンシャルを秘めているブロックチェーンだが、一方で課題も指摘されている。そしてそれらの課題はインターネットが過去にくぐり抜けてきた課題と重なる点が多い。野村総合研究所(NRI)ではブロックチェーンの課題を以下の5つに分類している(それぞれの課題の解決に向けた取り組みについては次回以降詳細に説明する)。

  • スループット(スケーラビリティ):ビットコインでも指摘されているように、ブロックチェーンは大量のトランザクションの処理には向いていないとの指摘がある。
  • プライバシー:現在の大半のブロックチェーンのプロトコルでは、取引内容を参加者が自由に検証できることが前提となっており、取引履歴や情報を秘匿する必要のある仕組みでは採用しづらい。
  • ガバナンス:ビットコインから始まったブロックチェーンには中心となるコミュニティーが存在せず、それぞれの企業や技術者がバラバラに活動を行っており、協調行動が起きにくい。特に反社会的な活動への利用(マネーロンダリングや詐欺など)への対策は急務である。
  • セキュリティー:現在のブロックチェーンで主に利用されている暗号技術は最新のものではなく、また将来どのような技術を採用・活用していくのかのロードマップが存在しない。これはガバナンスの欠如とも関連するが、長期的に利用される社会インフラとしてブロックチェーンを活用するにはリスクが存在する。
  • スタンダード:インターネットではRFCを中心としたオープンな標準化の仕組みが存在したが、現在のブロックチェーン技術ではそのような組織が存在せず、標準化とそれに必要な技術開発や研究が行われない可能性がある。
現行ブロックチェーンも同様に、解決すべき課題を抱えている
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 これらの課題はインターネットの黎明期でも指摘されてきたことでもある。その点で、MITメディアラボの所長である伊藤穣一氏は、ブロックチェーンにもインターネットのような標準化のプロセスを導入すべきとの主張を続けている。

 また、ブロックチェーンの生みの親でもある暗号通貨に関しても、現在世界的に「金融商品」と同様の機能を持つものについては、既存の金融商品の取引と同様の規制の対象にすべきとの議論がなされている。ブロックチェーンのポテンシャルを生かすには、現在までの活動の延長線上にはない新たな取り組みが必要だ。

柏木 亮二(かしわぎ りょうじ)
野村総合研究所 金融ITイノベーション事業本部 金融イノベーション研究部 GM
官公庁における産業振興政策の立案支援や製造業・情報通信・金融などの分野における事業戦略プロジェクト、IT事業戦略分析/技術インパクト評価などのプロジェクトに参画。2015年より経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会(FinTech研究会)」メンバー。著書『フィンテック』(日本経済新聞出版社)など。