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インターネットがもたらしたもの

 インターネットがもたらした最大のものは、情報の自由な流通である。流通する情報の中には「既に別の方法でやり取りされていた情報」「その情報それ自体が商品だったもの」「もともとは価値がないと思われていた情報」の3つに分類できる。

 最初の「既に別の方法でやり取りされていた情報」には、例えば企業内の取引情報や政府の公文書、郵便などがある。これらの情報がインターネットの登場によって例えば企業内情報はネットでの共有が当たり前となり、ERP(統合業務パッケージ)などの導入を可能にした。行政手続きの電子化も(日本ではまだまだだが)ネットワークの普及に伴い進展した。米国の確定申告は1990年代後半にはネット経由で可能となっていた。また郵便は電子メールでの通信に置き換わった。このようなタイプの情報流通は、それまで流通を支えてきた既存のインフラや事業の価値を過去のものにした。

 2つ目の「その情報それ自体が商品だったもの」には、いわゆるメディアコンテンツが該当する。ニュース記事、音楽、書籍・雑誌、テレビ番組、映画などのメディアコンテンツはその情報そのものに価値があったが、それまでは紙やレコード・CDなどの物理的媒体に記録され、それが新聞なら新聞販売店による配達網によって届けられ、音楽であれば街のレコード屋で売られ、本は書店で売られていた。テレビは広告スポンサーを収益源として、電波を通じてコンテンツを配信していた。しかしインターネットの登場によって、これらのコンテンツはデジタルデータに置き換えられ、しかも物理的な流通網を必要とせずにやり取りされるようになった。このデジタルデータの流通革新によって、既存のメディア事業は致命的な影響を受けている。

 最後に「もともとは価値がないと思われていた情報」が、いわゆるライフログである。インターネットが日常生活に深く浸透するにつれて、人々の様々な行動がデータとして記録・収集できるようになっていった。米アマゾン・ドットコム(Amazon.com)や米フェイスブック(Facebook)などに代表されるネット巨大企業の企業価値は、我々の行動データの収集と分析によって成り立っている。このようなデータはインターネット以前では収集することすら想像できなかったものであり、またこのようなデータに価値があることも見通せなかったことである。ただし、この変化は一面では「プライバシーの侵害」や「一部の企業への情報集中・独占による弊害」などの負の側面も指摘されている。

 インターネットのインパクトは、「情報流通の革新」と表現できる。この革新によって新たな産業や企業が生まれ、また既存の産業や企業が消えていった。そして、ブロックチェーンもまた、同様のインパクトをもたらす可能性があると言われている。ここからは以上のような、インターネットの歴史とインパクトを補助線として、ブロックチェーンを見ていこう。

ブロックチェーンがもたらすもの

 昨今、インターネットの変質を唱える論調が出てきている。それは「インターネットは既にオープンなネットワークではなく、分断されたネットワークになってしまっている」というものだ。実際、現在のインターネット上でのWebサービスの大半はIDとパスワードで保護された「閉じた」サービスの集合体といえる。あらゆるコンテンツやサービスはIDとパスワードを要求され、ネット上で自由に流通するコンテンツは激減している。

 このようなインターネットの変質は、ある側面で私たちの行動データやWebの技術を囲い込みたいという企業の思惑があり、また別の側面としてインターネットではまだ価値をやり取りするには危険が大きいという点がある。特に、後者は「インターネットで直接金銭的な価値を交換するのはまだ危険」という現実がある。

 ブロックチェーンがもたらす最大のものは、このインターネットに欠如している「信頼のプロトコル」である。インターネットで金銭的なやり取りをするには、現実的にはどこかの企業が運営している閉じられたサービスを使うのが一般的である(ネット証券でもいいし、フリマサービスを思い浮かべてもらってもいい)。しかし、ブロックチェーンは、そのような企業や組織の存在抜きでダイレクトに「価値」を交換できる信頼のプロトコルを提供できる可能性がある。

 この「第三者機関や中央集権的存在がなくても価値が交換できる」ネットワークには非常に大きなポテンシャルがある。また既存産業へのインパクトも大きなものとなるだろう。

ブロックチェーンは信頼関係が無い当事者間における価値のやり取りを可能とする「価値のインターネット」の実現を担う可能性がある
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