どうやって山に還元するか?

小原:腰原さんが掲げた「小さい林業」と「大きい林業」という切り口はさまざまな示唆に富んでいると思います。ローソンでの取り組みはどちらに当てはまりますか。

樋口:当社としては「大きい林業」でしょうか。木造の店舗は北海道エリアのみで、他の地域の店舗ではほぼ軽量鉄骨造を採用しています。仮に軽量鉄骨に代わって木造を選択するなら、毎年1000店もの建築を可能とする木材供給の仕組み、いわば「建築のための森林」が成立していることが前提です。

 現在、メーンで採用している軽量鉄骨造にしても、以前、重量鉄骨造からシフトしてきた経緯があります。その目的は主に工期の短縮や建設費の低減、断熱性の向上などですが、もし、木造に切り替えるとするなら同様のことを求めますね。イニシャルコストが低減するか、またはランニングコストでの回収が可能になるか、そういったメリットが見込める仕組みがあれば木造も十分選択肢に挙がります。

 先ほど紹介した環境配慮モデル店舗は実験的な店舗なので、「森林のための建築」にもぜひトライしてみたい。ただし、その結果、店舗や企業、顧客に還元できるものがないと、標準採用には至りません。森林のために何かが犠牲になるということではなくて、そこには何かウィンウィンとなる仕組みを探っていきたい。

小原:三菱地所ではいかがでしょうか。

柳瀬:「森林のための建築」、「建築のための森林」、両方の視点を持って取り組もうとしています。そのためには、既存の林業の仕組みの中にいるさまざまなプレーヤーが知見を持ち寄って、新たな関係を構築していく必要があります。そうしてつくり上げた新たな仕組みの中で、RC造やS造と勝負しながら、どうやって木造のメリットを得られるかを検討していかないとなりません。

 例えば前述の仙台の集合住宅では、床のCLTは大工ではなくとび職が施工しました。従来、戸建て住宅の現場で工事を担ってきたのは大工ですが、中高層の現場での経験に乏しい。一方、とび職は高所作業に慣れており、鉄骨施工の合間の時間をCLTの敷設に割くことで、施工手間の無駄を省きました。こうした工夫の積み重ねが木造で収益を上げることにつながるのではないでしょうか。

腰原: なるほど。実際にトライするといろいろな課題や解決策が浮かび上がりますね。ローソンや三菱地所のように改良を重ねながら取り組みが続いているのは貴重な事例と言えます。新たな仕組みをつくるには、地道な努力を続けていかなければならないと思います。

小原:木造は地球環境に優しく、美しいストーリーが描きやすい。しかし、企業はそこでビジネスを回していかなくてはなりません。しかも1回きりではなく、継続していく必要があります。

樋口:統一した仕様で数を出していくことがビジネスの前提となります。今の軽量鉄骨と比べて木造にすることで明確なメリットが存在するという前提の上で、年間1000店を出店するのに耐えうる供給力、設計・施工の手間軽減などの条件がそろうことが大切です。

 当社の事業では、建築需要が定期的に大量に出ます。そうした条件を生かしたビジネスモデルが確立できれば、林業、建築業とも潤っていくのではないでしょうか。ぜひコンビニエンス業界をうまく使っていただき、山が稼ぐというところまで協業できればいいと思います。

柳瀬:大きく稼ごうとするのは非常に大変です。小さく、しかし確実に稼ぐ方法を積み上げていくことが現実的です。当社の取り組みは今のところ採算に乗らないことも多いですが、少しでも利益を上げるように試行錯誤しています。プレーヤーの参加が増えるよう、これからも情報を発信していきたいと思います。

 今は1社で何もかも独占できる世の中ではありません。多くのプレーヤーが参加する中で、技術革新が進みます。お互いに競い合うことでユーザーがメリットを享受し、社会が少しでも良くなることに貢献する。それこそ当社の目指すところです。

 不動産業界や建築業界が林業界とどういったチームを組むかが重要になります。そのチームの強弱が、他社との差につながります。有効なチームが組めれば、将来的なアドバンテージにもなるはずです。

腰原:やはりキーポイントは用途と工法です。ローソンであれば郊外型の低層の店舗、三菱地所であれば中高層の集合住宅など、それぞれの用途に応じた建て方の仕組みをつくり上げていければと思います。

 木造の耐火建築が可能になり、木造でつくることができる建物の規模が広がりました。ただ、まだ経験が少ない用途ばかりです。一歩ずつ積み上げていく仕組みが欲しい。どのような方法があるか、考えていかないとなりません。

 そして建築業界や不動産業界だけが稼ぐのではなく、そこで得た収益をどうやって山に還元するのか。それを考えることが大切です。薄利多売の「大きい林業」も一品生産の「小さい林業」も、どちらがあってもいい。今まで木を扱ってこなかった業界のプレーヤーがどんどん参入すれば、新しいことができるのではないでしょうか。多くの企業が都市木造の世界に入ってくることで、状況は必ず好転するはずです。

小原:腰原さん、柳瀬さん、樋口さん、本日は活発な議論、ありがとうございました。

右から、東京大学の腰原幹雄氏、三菱地所の柳瀬拓也氏、ローソンの樋口智治氏、日経BP総研の小原隆(写真:渡辺 慎一郎)
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