2018年12月4日、東京・港区の赤坂インターシティコンファレンス「the AIR」で「木材活用フォーラム2018」が開催された。パネルディスカッションの最後のテーマは、「木造建築の工法や用途を考える」。日経BP総研の小原隆が司会を務め、東京大学の腰原幹雄氏、ローソンの樋口智治氏、三菱地所の柳瀬拓也氏と共に、木材活用を促すための課題を共有し、解決への糸口を探った。

右から、東京大学の腰原幹雄氏、三菱地所の柳瀬拓也氏、ローソンの樋口智治氏、日経BP総研の小原隆(写真:渡辺 慎一郎)
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パネリスト(五十音順)
  • 東京大学 生産技術研究所木質構造デザイン工学 教授 腰原幹雄氏
  • ローソン 開発本部建設部 シニアマネジャー 樋口智治氏
  • 三菱地所 住宅業務企画部兼新事業創造部 主事 柳瀬拓也氏
モデレーター
  • 日経BP総研 社会インフララボ 上席研究員 小原隆

木造でコンビニをつくる

樋口:ローソンでは、コンビニエンスストアの店舗を当社が建て、オーナーに経営していただくフランチャイズの事業形態が主流です。そうした店舗は全国で約1万4000店あり、近年では、毎年1000店ほどの新規出店とそれに伴う統合や閉店を繰り返しながら、成長を続けています。

ローソン開発本部建設部シニアマネジャーの樋口智治氏(写真:渡辺 慎一郎)
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 そうした流れの中で、一般的な店舗の他、年に1店ほど「環境配慮モデル店舗」を手掛けています。建築や運用を通して環境配慮などに関する実験を行い、標準的に展開できる省エネ店舗の工夫を模索しつつ企業のイメージアップにもつなげることを目的としています。

 2018年1月19日、群馬県館林市にオープンした館林木戸町店も環境配慮モデル店舗の1つです。この店舗では、自然換気や地中熱利用換気を組み込んだパッシブ建築設計に加え、屋根・天井部には国産スギのCLT(直交集成板)を採用しました。建物の断熱性能を向上させて空調機器の負担を軽減させるのが主な狙いです。構造にはLVL(単板積層材)を採用しています。木造建築をどこまで省エネ、省コストに寄与させられるのか、チャレンジしました。

2018年1月19日にオープンしたローソン館林木戸町店の外観(資料:ローソン)
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館林木戸町店は「環境配慮モデル店舗」として、自然換気や地中熱利用換気を組み込み、厚さ210mmの国産スギCLTを屋根面に採用した(資料:ローソン)
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 屋根の上には換気用の塔屋があり、自然の換気、対流の中で外気を取り入れつつ、塔屋から排気を行います。店内では、通常であれば天井を張って仕上げるところですが、屋根勾配のままにCLTの現し仕上げとしました。この勾配の高低差によって自然の対流を促して、塔屋からの排気、排熱を機能させています。

 オープンして10カ月が経過しましたが、省エネ性という面ではまだまだ目標に届いていません。ただ、チャレンジし続けること、一つでも二つでも新しい技術を身に付けて標準的な展開を目指す姿勢に取り組むことが大事だと考えています。

木造の汎用化を目指す

柳瀬:三菱地所では、都市部で大型もしくは中高層のさまざまな用途の建物をつくって不動産事業を展開しています。約2年前からCLTを使うことを検討してきました。さまざまな木部材を我々の開発事業に取り込むことで、収益性が改善できないか模索しています。

三菱地所住宅業務企画部兼新事業創造部主事の柳瀬拓也氏(写真:渡辺 慎一郎)
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 沖縄県の下地島空港ターミナル施設プロジェクトもその1つです。これは、以前、パイロット訓練用の滑走路があった所にターミナルを建築して活用しようというものです。屋根・天井部分にCLTを使っています。

下地島空港ターミナル施設プロジェクトの内観イメージ(資料:三菱地所)
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下地島空港ターミナル施設プロジェクトでは、屋根・天井面にCLTを使い、施工手間の低減とリゾート感の演出に生かす(資料:三菱地所)
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 沖縄の建築物では鉄筋コンクリート(RC)造が採用されることが多いですが、離島の場合、RC造を採用すると、多くの職人を島に呼び寄せる必要があります。一部に木造を用いることで、その施工手間を軽減する狙いがありました。

 また、観光地であるため、当初から「空港からリゾート」というコンセプトがあり、そのコンセプトに木材の質感がマッチするという意匠的な理由もありました。結果的にRC造に比べると、施工手間の面でかなりの省力化が図られています。用途としては特殊な事例に当たるかもしれませんが、建築主からの支持を得られるのであれば、こういった木材活用も可能だという手応えを得ました。

 さらに当社では、汎用型として考えているCLTのプロジェクトにも取り組んでいます。仙台市で建設中の10階建ての集合住宅「(仮称)泉区高森2丁目プロジェクト」もその1つです。鉄骨のフレームにCLTの床や耐震壁、竹中工務店が開発した「燃エンウッド」の柱を組み合わせるというハイブリッド構造を採用しました。国内初の高層住宅におけるCLT床の採用事例です。

(仮称)泉区高森2丁目プロジェクトの外観イメージ(資料:三菱地所)
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(仮称)泉区高森2丁目プロジェクトでは、鉄骨造+木造の混合構造を採用した(資料:三菱地所)
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 最初は木造10階建てを検討しましたが、計画内容に合う寸法の部材を調達するのが難しいことが分かりました。そこでRC造+木造、あるいは鉄骨(S)造+木造を検討しました。乾式工法を用いて工期の短縮を図るという目的もあったので、最終的にS造とのハイブリッド構造を選択しました。この工法を定形手法として、他にもプロジェクトを計画して継続的な展開を検討しています。

都市木造の新たな可能性

腰原:「都市木造」というキーワードを提唱したいです。これまでの伝統や慣習にとらわれることなく、木や木造の新しい可能性を模索しようということです。

東京大学生産技術研究所木質構造デザイン工学教授の腰原幹雄氏(写真:渡辺 慎一郎)
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 もともと都市部ではRC造やS造の建物がほとんどです。一方、地方では地産地消という観点もあり木造の建物がつくられています。これからは都市と木造を結びつけようと、都市木造のコンセプトが生まれました。

 現在の木造促進の流れは、戦後植樹した木材が大量にあるのでそれを有効に使おうという文脈があります。「伐採して植える」という循環を成立させるには、現状の木材需要だけでは足りません。都市部でも木材利用を進めなければならない。低層に加え、5階建て、6階建ての木造が出てこないと需要は高まらないと思います。

 従来の木造の文脈を便宜的に「小さい林業」の世界として定義すると、地域にある材を生かして特殊な材、高価な材を大工の職人技でつくるという物語性を含めた「一品生産」がこれまでの木造の価値観でした。しかし、この世界はコスト面でハードルが高く、産業として成立させることが難しい。特別な技術を持つ一部の人たちが携わらないと成り立ちません。こうした業態である限り、収益性は上がりにくいでしょう。

小さい林業(文化、楽しむ、職人、一品生産など)と大きい林業(稼ぐ、大量消費、標準化、規格材など)を仮に定義してまとめた図(資料:腰原幹雄)
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 では、どうすれば稼げるようになるか。例えば、部材や設計システムを規格化し、標準化した建物をつくることが考えられます。業界内外からさまざまな人が参加して、安くできる仕組みを検討して確立させていく。いわば「大きい林業」の世界です。

 そうなると木材にしても特殊な銘木ではなく、汎用性の高い住宅用流通製材、大規模集成材、LVL、CLTといったものが中心となります。大量供給、安定供給をして、標準化していくことをやらないと、「稼ぐ」というところにたどり着きません。

 もちろん、どちらが良いという話ではありません。「小さい林業」が目指しているのは、森林から出てくる資源を大事に使って建築をつくろうという思想です。一方、「大きい林業」のほうは、用途や工法に応じて必要な材料を森林からいかに調達するかという思想です。

 今のところ、どちらもまだあまりうまくいっていません。川上(山)から川下(建築)まで一連の流れとなって持続していく、さらには新しい用途の建築のために新規需要を盛り上げていく。そんな世界をどうやってつくっていくか、模索が続いています。