前回の記事(「丹下、黒川、伊東─パリで存在感を示す日本の巨匠たち」)では、世界への扉を開いた昭和世代の日本人建築家たちがパリで実現した建築を4件紹介した。今回はここ10年ほどの間に日本人建築家がパリで手掛けた、あるいは手掛けているプロジェクトを、年代順に見ていこう。

5.アトリエ・ワンの公営集合住宅(2012年)

 最初に紹介するのは、アトリエ・ワンによる公営集合住宅「Logements Sociaux Rue Rebiere」だ。パリ北部、ポルト・プシェ地区の道路沿いに、9組の建築家によるさまざまなデザインの集合住宅が並ぶ。

アトリエ・ワンによる公営集合住宅の外観(写真:日経アーキテクチュア)
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 塚本由晴氏と貝島桃代氏が設立したアトリエ・ワンは、住宅の設計や都市観察プロジェクト「メイド・イン・トーキョー」で知られる。「メイド・イン・トーキョー」とは、じっくり見ないと見過ごされてしまう都市や建築の“隠れたルール”を発見して、にやりと笑ったあと、その理由をまじめに考えるプロジェクトだ。この公営住宅も、個性を競う建築家住宅群のなかにあって、アトリエ・ワンらしい着眼点のデザインに思えた。

 デザインの主役は片持ちで張り出す数多くのテラス。一見すると大小“ランダム”に飛び出したように見えるが、よく見るとこのデザインには明確なルールがある。

ファサード見上げ(写真:日経アーキテクチュア)
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 ルールのベースになっているのは「フレンチウインドー」と呼ばれる縦長の窓。これはパリの街並みを形成するごく一般的な窓で、幅は1.2mが標準。隣り合う壁の幅もこれと同じことが多い。つまり、同じ幅の窓と壁が交互に繰り返される。

 この住宅では、あえて一般的な「フレンチウインドー・ファサード」を採用し、そこから突き出すテラスによって変化を付けた。テラスは奥行き方向の寸法が3種類。幅が窓1つ用と2つをつなぐ用の2種類。パターンは意外に少ない。それでも、テラスが住戸の区切りを混乱させるので、どこか「ファンタジー」のような印象を与える。

全景。ちなみにアトリエ・ワンは、英語では「Atelier Bow-Wow」と表記する(写真:日経アーキテクチュア)
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 ……などといったうんちくは、あらかじめ資料を読んで見に行ったので分かったことで、外観写真を見ただけでそのルールに気付くことができた人は、相当の建築センスの持ち主。尊敬に値する。

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