鮫島 正洋
内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士

 今般、ニュービジネス協議会(連合会)から「経済産業大臣賞・公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会会長賞」という過分な賞を頂いた。本来、同協議会による表彰は第二創業の中小企業やベンチャー企業など、イノベーティブなビジネスを開拓した者に与えられるが、これらのビジネスを支援する事業者を対象とする「支援部門賞」という枠組みでの受賞である。

* 詳しい情報は、http://www.nbc-japan.net/activity/award/。

 支援部門といいながらも、同協議会の本旨である「サービスの斬新性」は問われるわけで、多くの参加者は「なぜ、法律事務所が?」という感想を持っているようであった。そこで、我々の業務の特徴である「技術法務」の由来と本質について、この場を借りて説明していく。

13年の会社勤めを経て弁護士に

 もともと、13年間のサラリーマン経験を経て弁護士登録をした筆者は、会社勤務時代に取得した弁理士資格を生かした法律業務を志した。ところが、弁護士登録をしてみると、そのようなキャリアの弁護士には、特許訴訟の代理業務以外、仕事が存在しないことに気づいた。しかも、特許訴訟業界には、業界の重鎮と言われる大先輩から、これを目指す新進気鋭の若手弁護士まで、重厚な弁護士のレイヤーが存在したのである。まさに「レッドオーシャン」状態。会社員として蓄積してきたビジネスに関する経験値も、特許訴訟では生かしにくい。筆者は、特許訴訟弁護士の道を選択することに大いなる危惧を持った。

 業界をさらに俯瞰していくと、日本には多くの技術系企業が存在するにもかかわらず、これらの企業をターゲットとして、ビジネス的な問題を扱う法律事務所が存在しないことも分かってきた。ただ、大企業にはその需要はあまりない。企業内に法務部・知財部が存在するからである。

 そうこうしているうちに、中小企業の知財戦略啓発プロジェクトの話が特許庁から舞い込んだ。初めて飛び込んだ中小企業の世界。知財の重要性を認識しながら、十分な予算や人員、知識、ノウハウがなくて苦悩する中小企業経営者たちに出会った。そこは、自分の求めていた、技術や知財のバックグランド、ビジネス経験の全てを生かせる世界であり、特許訴訟業界とは違って先達も存在しない「ブルーオーシャン」だったのだ。

「この国に貢献するために日々精進」

 この道を極めるべく、2004年に現在の法律事務所を設立した。「ブルーオーシャン」には、オンリーワンという利点があると同時に、マーケットが存在しないという、ビジネス的には致命的ともいえる欠点がある。タイムチャージどころか、見積もり合意した固定の弁護士費用すら支払っていただけないことが多々あったし、リーマン・ショックや東日本大震災で景気の行方が全く見えない時期もあった。しかし、「この業界は必ず伸びる。これを突き詰めていけば日本に貢献できる」という確信は1度も揺らがなかった。

 筆者が確立しようとした、技術系企業向けの法律業務は後年、「技術法務」と名付けられる。当時はロースクール全盛時代。弁理士資格と技術バックグランドを持った多くの若者が法曹界にチャレンジしてきた。同じ志を持っているであろう、彼らの能力を発揮する場を創り出したいという一心で業容を拡張し、そのような若手を採用し続けた。

 2012年には、「技術法務をもって、日本の競争力に貢献する」という社是を制定した。「お客様の事業に貢献する」というのであればともかく、「日本の競争力に貢献する」とまで大見得を切った法律事務所は我々だけだろう。「単にお金儲けのために仕事をしているのではない。世の中に、この国に貢献するために日々精進しているのだ」という意識を明確にすることによって、若い弁護士が一層の気概を持って働くようになり、仕事の完成度が上がっていった。

 特許を扱う多くの法律事務所は、現在でも特許訴訟業務のみの一本足打法であるが、我々は特許訴訟と中小・ベンチャー企業向け技術法務の二刀流を貫いている。弁護士数が25人となった4年前に知財ブティック法律事務所としてはトップ規模となり、一昨年には技術法務の売り上げが50%を超えた。コモディティー化した法律事務所業界において、我々の経営思想がイノベーションを起こした、と表現してもいいのだと思う。