ドバイで開催された、AIのガバナンスを議論するワークショップ形式の国際会議「グローバルガバナンスにおけるAIラウンドテーブル(Global Governance of AI Roundtable:以下GGAR)」でキーワードの1つとなっていたのが、フランスとカナダの政府が2018年12月に設立計画を公表した「AIに関する政府間パネル(IPAI)」である。

 GGARでは、あらかじめ4つのテーマとサブテーマが設定されており、各参加者は20人程度に分かれて議論を行った。筆者はそのうち「IPAIの目的とアプローチ」を議論するグループの座長を務めた。本稿はIPAI設立が提唱された背景と、IPAIの意義や必要性についてグループで実施された議論を紹介する。

セッションでの議論の様子
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IPCCとの類比から生まれたIPAI

 IPAIという概念は「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」との類比から生まれている。1988年に設立されたIPCCは気候変動における科学的な研究を整理する政府間機構である。IPCCが新たな研究をすることはなく、既に公開されている様々な研究を収集して整理し、科学的な知見に基づく評価報告書を各国政府に提供することが目的である。

 AIと気候変動の問題にはいくつかの共通点がある。人類社会にもたらす様々なリスクについて議論があり、かつそれは科学技術的に影響がはっきりしないグレーな領域が多く含まれている。そこでAIも気候変動と同様、論点を整理したり、シナリオを作成したりするマルチステークホルダーのパネルが必要ではないか、というのがIPAI設立の趣旨である。

 一方、IPAIとIPCCには重要な違いもある。IPCCにおける議論が科学的なデータの解釈の違いなどによるのに対し、AIに関する議論の多くは科学ではなく文化や価値観に根差している点だ。もちろんIPCCの議論も純粋な科学的知見のみの議論とは言えず、政治的な議論も含まれていることも確かだが、AIの議論の多様性は気候変動の比ではない。

AIに関する政府間パネルとGGARの背景

 IPAIに関する議論を紹介する前に、議論の場となったGGARの背景にあるいくつかの流れを解説しよう。GGARの事務局/オーガナイザーとしての役割を担っていたのは、米ハーバード大学ケネディ行政大学院から生まれたNPO法人The Future Society(TFS)である。このNPO法人こそ、IPAIの設立を主張する報告書を欧州議会に提出した団体だ。

 The Future Societyは学術団体の米電気電子技術者協会(IEEE)と協力し、オンライン上で1年間にわたってAIと社会について討論する「AI Initiative」プロジェクトを2017年に運営していた。AI Initiativeは日本の人工知能学会とも連携していた。

 2018年3月にIEEEとThe Future SocietyはAI Initiativeの議論を終了し、9月に報告書を欧州議会に提出した。The Future Societyは報告書の中で、AIについて2つの国際組織を設立すべきと提言している。1つはAIの技術開発において取り組むべき課題について各国政府が合意を形成する政府間パネル、つまりIPAIである。もう1つは国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)をAIによって進展させることを目指す「AI4SDGセンター」だ。

 背景には、国際的な組織の間でAIの倫理とガバナンスに関する議論が2018年以降に活発化したことがある。同年、ユネスコ事務局長がAIの倫理的側面に関して取り組むことを宣言し、OECDはAIに関する専門家会合(AI expert Group at the OECD:AIGO)を始めた。これには日本からも専門家が参加している。さらに2018年12月にはフランスとカナダの政府が、The Future Societyが報告書で言及していたIPAIの設立計画を発表した。

GGARと関連組織
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