アラブ首長国連邦を構成する人口約300万人のドバイ首長国には、世界に類を見ない「人工知能(AI)国務大臣」が存在する。2017年、27歳(当時)のウマル・ビン・スルターン・ウラマー氏が着任した。ドバイ政府は同年にAI戦略を公表し、技術革新だけではなくAIの倫理やガバナンスに向けた先進的な取り組みを推進している。

「グローバルガバナンスにおけるAIラウンドテーブル(GGAR)」で挨拶をするウマル・ビン・スルターン・ウラマーAI国務大臣
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 取り組みの一例として、同国はAIのガバナンスを議論するワークショップ形式の会議「グローバルガバナンスにおけるAIラウンドテーブル(Global Governance of AI Roundtable:以下GGAR)」を2017年から開催している。このラウンドテーブルは米ハーバード大学ケネディ行政大学院から生まれたNPO法人The Future Society(TFS)が全面協力している。

 2回目の開催となる今回は世界各国から250名以上の産学官民の専門家が集まり、2019年2月10日に1日がかりで議論した。本稿ではドバイ政府のAI人材育成政策と、「AIと倫理」の議論へのスタンスを明らかにする。

AI国務大臣から語られるAI政策

 GGARではドバイのAI国務大臣が登壇。2018年の第1回GGARでAI政策の面で重要だと指摘された点を参考に、ドバイ政府は以下の3つの政策を推進したと紹介した。

  1. AI政策を推進するためには、技術システムや運用、さらには様々な影響について政府の人間がよく知らなければならない。そのため政府官僚100人をオックスフォード大学に留学させてAIに関する教育を受けさせた

  2. 若手がAI技術を使いこなせるようになる教育も重要である。そのため、5000人の学生を対象としたAIキャンプを実施した。2019年には数を倍に増やしたいと考えている

  3. 若手に対する教育として、大学にAI学部課程を設置した。GGARで議論された内容も重視する他、コンピュータサイエンスの学生にも気候変動や持続可能性など様々な課題に対応できる場所やスキルを身に付けさせる

 大臣は最後に、AIの開発とガバナンスの両方を推進していくことが、砂漠の国であるドバイの未来を考えるうえでの希望を提供する、と締めくくった。

 念のため付言すると、GGARはドバイ政府に政策を提言する会議ではない。AIのガバナンスの在り方を考える国際会議である。しかし地理的・経済的・人的なネットワークを駆使してラウンドテーブルを開催したこの国は、場を提供するだけで終わらずに、議論された内容を自国の政策にすぐ取り入れた。

 AI国務大臣のような20代の若手がリーダーシップをとって、できることから着実に実行できるのは、ドバイならではの事情もある。ドバイはこれまで王族を中心とした統治の下で打ち出すビジョンがうまく機能し、経済を発展させてきた。

 その発展に欠かせない要素として、欧州からの支援や連携があった。ドバイは英国の保護領から独立した歴史的経緯もあり、欧州とのつながりが強い。ドバイ首長国をはじめとするアラブ首長国連邦には英ロンドンビジネススクール、仏ソルボンヌ大学、そしてハーバード大学や米マサチューセッツ工科大学(MIT)、米ニューヨーク大学の現地校が開校し、アラブ地域における高等教育の国際ハブになりつつある。「産」だけではなく「学」について欧米諸国と密に連携してきたことが、今回打ち出した大胆なAI教育政策にもつながっているのだろう。

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