美術館と言われたら信じてしまいそうだ。旭食品グループの酔鯨酒造(本社高知市)が2018年10月、高知県土佐市の山中に完成させた新たな酒蔵「土佐蔵」。鉄筋コンクリート造打ち放しのシャープな外観に、およそ従来の「酒蔵」のイメージはない。 

酔鯨酒造の新たな酒蔵「土佐蔵」。鉄筋コンクリート造・地上2階。延べ面積約1360m 2。衛生対策や省エネルギー対策を徹底している。予約すれば1階ギャラリーなどを見学できる。(出所:竹中工務店)
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 「酒蔵」らしくないのは外観だけではない。仕込み場や酒母室など各室間を明確に分離するなどの徹底した衛生対策や、全熱交換器*1を活用した空調の省エネルギー対策など、最新技術を駆使した設計は「次代の酒蔵」と呼ぶにふさわしい。事業費約10億円を投じて建設した。

*1 全熱交換器:換気によって室内から排出する熱を回収し、室外から給気する空気に伝わらせて室内に取り込んで熱損失を軽減する換気機器。

 設計上のポイントは「つぎはぎの無駄をなくす」ことだ。増築に増築を重ねた既存の酒蔵の不便から学習。動線を整理し、精米室から仕込場まで各室を合理的に配置して、麹(こうじ)の発酵を管理しやすくするなど質の高い日本酒造りに寄与する酒蔵の実現を狙った。

歴史より機能性と個性を重視

 同社の創業は1872年(明治5年)*2。日本酒の酒蔵として比較的新しいとはいえ、約150年の歴史を持つ「老舗」だ。しかし、同社代表取締役社長の大倉広邦氏は新しい酒蔵建設について、「歴史よりも、日本酒を造りやすい機能性と他社にはない個性を重視した」と語る。

*2:1969年に有限会社化、1972年に株式会社化。

酔鯨代表取締役社長の大倉広邦氏。1978年高知県生まれ。2002年に横浜国立大学経済学部を卒業後、キリンビールに入社。2013年に酔鯨酒造に入社。2016年から現職。(撮影:日経ものづくり)
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 同社はこれまで、本社がある高知市長浜に酒蔵を構えていた。出荷石高は約4500石(約81万リットル、一升瓶で約45万本相当)。しかし建物の老朽化が進み、周辺地域が南海トラフ地震で津波が発生した際に被害を受けることが懸念されるため、約20km離れた土佐市の敷地への段階的な移転が決まった。

 2018年10月に完成した新棟の生産石高は初年度年間660石(約11万8800リットル)の生産を予定する。最終的には最大2000石(約36万リットル)まで引き上げる見込み。まず純米大吟醸などハイエンドの商品の生産を開始し、2030年ごろをめどに純米酒など普及酒も含めて土佐蔵を生産拠点とする予定だ。

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